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奈那子は不思議に思った。

最近、麻由美がやたらとお菓子や料理を買ってきてくれというのだ。

「タルト、買ってきてくれませんか?」

「はあ……。タルトですか?」

聞き返すと、麻由美はこくりと頷いた。

「はい。買ったら、冷蔵庫に入れておいてください」

無表情でいう麻由美を見て、奈那子は訊いた。

「どうして買ったものを食べたいのですか?厨房にお知らせすれば……」

「いいえ」

麻由美は鋭く奈那子の言葉を遮り、もう一度頼んだ。

強い口調だった。何となく、いつもの華やかな麻由美には見えなかった。

「お店で、タルトを買ってきてください。お願いします」

麻由美の言葉を無視してはいけない。奈那子は不思議に思いつつも、丁寧にお辞儀をした。

「わかりました」

そういって、奈那子は駅前のお菓子屋に行き、オレンジのタルトを一つ買った。

その店はタルトが安くておいしいことを奈那子は知っていた。

「これでいいでしょうか」

奈那子が麻由美にタルトを見せると、麻由美は微笑んだ。

「まあ。おいしそう」

タルトを眺めて、麻由美は幸せそうにいった。

奈那子は首を捻った。

どうして店で買ってきたものを食べたいといったのだろうか。

どう考えても、この厨房で作ったものの方がおいしいに決まっている。

「では、冷蔵庫に入れておいてください」

麻由美にいわれ、また奈那子はお辞儀をした。

「わかりました」

奈那子はタルトを冷蔵庫の中に入れた。




次は「和菓子が食べたい」といってきた。

「和菓子を買ってきてください。羊羹ようかんでも、あんみつでも、何でもいいです」

奈那子はまた不思議に思い、訊いてみた。

「お店のものより、このお屋敷で作ったものの方が……」

「買ってきてください。お願いします」

麻由美は鋭くいった。冷たいナイフのような言葉を返してきた。

「……わかりました」

いわれた通りに、奈那子は和菓子屋で適当なものを選び、買ってきた。

そしてそれも、冷蔵庫の中に入れておいた。



さらに今度はハンバーグが食べたいといってきた。

「冷凍食品のハンバーグを買ってきてください」

奈那子は困った。

「麻由美様に、冷凍食品なんて食べさせられません」

大富豪の一人娘の麻由美に、そんなものは食べさせられない。

もし雪男に知られたら、もしかしたらメイドを辞めさせられるかもしれない。

「厨房にお願いすれば、すぐに……」

しかし麻由美は首を振り「買ってきてください」と強くいった。

仕方なく奈那子は近所のスーパーで、電子レンジですぐに作れる、冷凍食品を買ってきた。

できるだけ値段の高いものを選んだ。

だがどれも一緒だった。

「これでいいでしょうか」

麻由美は冷凍食品の『デミグラスハンバーグ』という文字を見て、首を縦に振った。

「ありがとうございます。これでいいです」

満足そうにいう麻由美に、奈那子はもう一度訊いた。

「どうしてこんなハンバーグが食べたいのですか?厨房にお願いすれば、もっとおいしいハンバーグが作れますよ?」

奈那子が訊くと、麻由美は「だめです」と首を横に振った。

「厨房で作ったものではいけないんです」

そういって、その場から立ち去ろうとする麻由美に、奈那子は声をかけた。

「こんなものを食べていたら、体がおかしくなってしまいます。これからは、きちんとした食事をしてください」

しかし麻由美は振り向かず、何も聞こえなかったように奈那子の前から姿を消した。



そして今回はパスタを買ってくるように頼まれた。

もう訊いても意味がないだろうと思い、なぜ冷凍食品が食べたいのかと訊くのはやめた。

いつものスーパーに行き、冷凍食品の売り場でパスタを探した。

しかしパスタは売り切れていた。

他の店に行こうと思ったがメイドの仕事は毎日難しいし、忙しい。奈那子は精一杯、働いているのだ。

なかなか外に行ける時間がなかったため、奈那子は冷凍食品を買えなかった。

「すみません」

何度も頭を下げ、奈那子は謝った。

俯いている奈那子に、麻由美は優しくいった。

「いいんです。こんなこと、気にしないでください」

満面の笑みで、麻由美は奈那子の顔を見た。

奈那子はその笑顔を見て、さすが大富豪の娘だな、と改めて衝撃を受けた。

お金持ちの娘は、だいたいが、わがままで強気で自分勝手で金遣いが荒いと奈那子は思っていた。

しかし麻由美は違った。

誰に対しても謙虚で、優しくて、奈那子のイメージとは正反対だった。



麻由美に礼をいわれるのが嬉しくて、奈那子は麻由美に頼まれた、安価な食べ物を買った。

お茶会が終わり清司が帰ると、麻由美は次に買ってきてもらう冷凍食品を奈那子に頼んだ。

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