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麻由美が作ったハンバーグは、いままで食べたことがないほど、おいしかった。

清司はぺろりと平らげ、いつものように尊敬の言葉をいった。

「どうしてこんなにおいしいものが作れるの!?」

麻由美は微笑みながら、清司に聞き返した。

「そんなにおいしい?」

「うん。お菓子も料理も上手いなんて、僕、すごく嬉しいよ」

「そう。私も嬉しいわ」

ふふふっと可愛らしく笑う麻由美を見て、清司もデレデレと笑ってしまった。

そして清司は、少し勇気を出していってみた。

「次はパスタ作ってくれない?」

麻由美は顔を傾げながら聞き返した。

「パスタ?」

「うん。パスタ好きなんだ。僕。作ってくれない?」

身を乗り出すようにして、清司は頼んだ。

「……パスタ……」

麻由美は少し不安そうな顔をした。

「え……?」

清司はどきりとした。もしかして、麻由美に悪いことをしたのでは、と思い、緊張した。

麻由美は小さく答えた。

「……私、パスタ作れるかしら」

「どういうこと?」

清司が訊くと、麻由美は即答した。

「お母様に教えられていないから」

「そうなの?」

麻由美にだったら、パスタなんて簡単に作れそうな気がした。

洋菓子も和菓子もハンバーグも上手く作れるのに、どうしてパスタは無理なのだろうか。

「麻由美ちゃんだったら、パスタなんてすぐ作れると思うんだけどな」

そういうと、麻由美は困ったような顔をした。

「私にだって、作れないものもあるわ」

そして、何かを思い出すような顔をした。

「一人きりで作れないものだってあるわ。私一人きりでは」

また麻由美が不思議な目になった。話し方が麻由美ではなく、違う人間のように聞こえた。

「そんなことないよ。麻由美ちゃんは、何でも一人でできるよ。何でも作れるよ」

清司の言葉に、麻由美は頭を左右に振った。

「……私は、一人じゃ何もできない。誰かが一緒にいてくれなきゃ、何もできないし、何も作れない」


麻由美の言葉を聞いて、清司は嬉しくなった。

麻由美ちゃんは僕とずっと一緒にいたいと思っているのだ。

清司さんがいなきゃ、私は何もできないし、何も作れないのよ………。

きっと麻由美はそう思っているのだ。

僕が、麻由美ちゃんを護る人間なんだ…………。

また優越感が心の中に沸いてきた。


麻由美はもう一度頭を振ると、「パスタ、がんばってみる」と笑いながらいった。


「そうだ。麻由美ちゃんのお母さんって、名前何ていうの?」

清司は話題を変え、話し始めた。

「……名前?」

「そう。何ていうのかなあと思って」

顔を覗き込むように麻由美を見ながら、いった。急に訊いてみたくなった。

麻由美は黙っていたが、しばらくすると小さく呟いた。

「もう忘れちゃった」

清司は麻由美の顔を見つめながらいった。

「そうかあ」

麻由美はじっとどこかを見ていたが、思い出したように目を大きくした。

「……だけど、お母様が私のこと、愛子って呼んでたってことは聞いたことあるわ」

「愛子?」

「そう。愛情の愛に、子どもの子で愛子」

「へええ」

清司は少し目を大きくした。

「お母様は私の名前を『愛子』にしたかったらしいのよ。子どもは愛の結晶っていってたみたい。結局麻由美になっちゃったけど、お母様はどうしても愛子って呼びたかったんだって」

そして小さくため息をついた。寂しい顔をした。

清司は俯いている麻由美に、優しく声をかけた。

「そんな寂しい顔しないでよ」

麻由美は少し顔を上げた。うん、と笑った。

清司はソファの背もたれに体をうずめて、麻由美の顔を見た。

「僕は麻由美って名前になってよかったと思うよ」

「よかった?」

麻由美がいうと、清司はふっと笑いながら、いった。

「愛子なんて地味だし古臭くて、麻由美ちゃんには似合わないよ」

すると麻由美から笑顔が消えた。そして冷たいナイフのような口調でいい返した。

「そうかしら」

「うん。僕は、麻由美ちゃんが愛子なんて名前だったら嫌だなあ」

それに、と清司は加えた。

「子どもは愛の結晶とか、恥ずかしくないのかなあ。あんまりそういうこと考えないよね。ずいぶんとロマンチックな性格だったんだねえ」

麻由美の体が小刻みに震えていることに気付かず、清司は思ったことをそのままいった。

「麻由美ちゃんってすごくいい名前だと思う。愛子はよくないよ。麻由美ちゃんになってよかったんだよ」

清司はくり返しいった。

「麻由美ちゃんのお母さんはネーミングセンスゼロだねえ」

馬鹿にするようにいい、清司はトドメを刺した。

「前にもいったけどさ、もうお母さんのことなんか忘れちゃいなよ。愛子って名前もさあ」



麻由美が勢いよくソファから立ち上がった。

そしてくるりと後ろを向き、ドアから出て行った。

清司は驚いて、麻由美と同じように立ち上がった。

しかし追いかける気はなかった。

何か悪いことをいったのか、と清司は、自分がいまいった言葉を思い返した。

だが何も悪いことをいっていない。

当たり前のことをいっただけだ。

なぜ麻由美が出て行ってしまったのか、全くわからなかった。




しばらくすると、麻由美はもとの美しい女性に戻っていた。

「失礼なことをしてごめんなさい。いきなり出て行って、驚いたでしょう」

清司は首を横に振り、笑った。

「そんなこと関係ないよ。麻由美ちゃんが失礼なことをしても、全然気にしないよ」

「それならよかった」

麻由美はソファに座りながら、清司に微笑んだ。

「僕も麻由美ちゃんに失礼なことしないように、気を付けなくちゃ」

目を閉じながら、清司は誓うように胸に手を当てた。

「麻由美ちゃんのこと悲しませないようにしないとね」

清司の言葉を聞きながら、麻由美はいつものように作り笑いをしていた。

清司に向ける笑顔は、全て作り笑いだ。

麻由美人形の笑顔だ。

死人の鳥居麻由美の笑顔を見て、清司は幸せを感じていた。













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