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二週間に一回という割合で、清司は麻由美とお茶会をすることになった。
麻由美と会える日が楽しみで、清司は毎日うきうきしていた。
緊張も、だんだん消えていった。
会う度に麻由美は美しくなっていった。
清司は、自分が麻由美を美しくさせているのだと、優越感に浸った。
麻由美ちゃんは、僕がいないと美しくならないのだ。
麻由美ちゃんに必要なものは僕なのだ。
僕は、麻由美ちゃんのために生まれてきたのだ。
そう考えるたびに、口から笑いが零れそうになった。
僕にはこんなにも素敵な婚約者がいるのだと自慢したくなった。
18歳になるのが待ち遠しくて仕方がなかった。
清司が麻由美と付き会うことになり、鳥居家と北原家の仲も縮まっていった。
雪男は何度も清司を屋敷に呼び、パーティーを開いた。
清司だけでなく、北原家全員を屋敷に呼ぶこともあった。
雪男と幸司は、患者と担当医という関係ではなく、何でも話せる親友のようになった。
「遠慮しないで、たくさん食べてくれ」
雪男はいつも清司にいった。食べることが大好きな清司にとって、雪男は神様のような存在だった。
もちろん出された食事は全て食べたし、おかわりもした。
そうしているうちに、清司は4キロも太った。
麻由美も嬉しそうに微笑んでいた。
その麻由美の目が冷たく凍っていることに、清司は気づかなかった。
清司は幸せだった。
こんなにもおいしいものが、毎日食べられるのだ。
大富豪と知り合ったことで、父はさらに病院内で有名になるはずだ。
しかも、こんなにも美しい麻由美と結婚ができるなんて……。
清司は毎日天国にいるような気分だった。
その清司の傍らで、栄一は勉強をしていた。
毎日一人で黙々と勉強していた。
栄一と清司の会話はかなり減った。食事をする時間もばらばらで、ほとんど顔を合わせなかった。
清司は寂しかった。栄一に嫌われていると思った。
「一緒にご飯食べようよ」といっても、断わられた。
どうしてそんなに自分と仲良くしてくれないのだろう、と何度も悩んだ。
いじめた覚えなんてない。ふつうに暮らしているだけなのだ。
初めて会った時から、とっつきにくいなとは思っていた。
一人でいたいというし、何か話しかけると迷惑そうな顔を向けてくる。
だが一緒にいれば、いつかは心を開いてくれると清司は思っていた。
けれど栄一は心を開いてくれなかった。むしろ、どんどん遠ざかっていくような気がした。
しかし麻由美の顔を見ると、栄一のことは完全に頭の中から消えていた。
麻由美と一緒にいるのが一番大切だった。栄一のことはどうでもよかった。
麻由美はお菓子作りが得意で、何でも作れた。
お菓子が大好きな清司は、いつも麻由美の作ったお菓子を食べた。
「麻由美ちゃんは天才だね!」
そういうと、麻由美は嬉しそうに笑った。
「ありがとう。次は何を食べたい?」
「そうだな……じゃあ、タルト食べたいなあ」
「タルトね。わかった。作ってみる。うまくいかなかったら、ごめんね」
清司と麻由美は、もう敬語を使わなくなっていた。
「清司さんはお菓子が大好きなのね。たくさん食べてくれて嬉しい」
清司は胸がどきどきした。顔が赤くなるのを必死に堪えた。
「麻由美ちゃんが作った物は何でも食べるよ。だって、すっごくおいしいんだもん」
「そんなこといわないで」
麻由美も照れたように笑った。
「清司さんが喜んでくれるように、もっと練習しなきゃ」
「いやあ……。もう麻由美ちゃんはこれ以上上手くならなくてもいいと思うよ。えへへ……」
麻由美と話していると、いつもデレデレしてしまう。
「麻由美ちゃんと一緒にいたら、太っちゃうよ」
「いいじゃない。おいしいのが一番大切よ」
「そっか。そうだよね。えへへ……麻由美ちゃんはいいこというね」
「何いってるの」
可愛いらしく笑う麻由美を見て、清司は優越感に浸った。
「じゃあ、約束ね。タルト、がんばって作るから」
「うん」
そういってその日のお茶会は終了した。
清司は自宅への帰り道、ずっとスキップをしていた。
こんなに素晴らしい美女と結ばれるのだと思うと、もう誰かに話したくて仕方がなくなった。
清司は、麻由美のことを栄一にいうことにした。
毎回お茶会で話した内容や、麻由美の美しさなどを栄一に聞かせた。
「栄一くん。麻由美ちゃんって、すごくお菓子作りが上手いんだ。何でも作れるし、全部がおいしいんだ。すごいよ。麻由美ちゃん、天才だよ!」
勉強中の栄一に、清司は毎日話しかけた。
「今度、タルトを作ってくれるんだって。どんどん太っちゃうよ。どうしよう」
困ったように笑いかけた。優越感で溺れそうになった。
しかし栄一は無視していた。ただ教科書を見つめているだけだ。
清司の話など、全く耳に入っていないようだった。
「でも、栄一くんは甘いもの苦手なんだよねえ。もったいないねえ」
清司がそういうと、栄一は鋭く睨んだ。
「婚約者のことなんか興味ねえって、何度いったらわかるんだよ」
いい加減にしてくれ、という口調だった。
「でも、麻由美ちゃんは」
清司がいうと、栄一は首を横に振った。
「婚約者の名前も性格も、聞きたくない」
清司はいつも不思議に思っていた。
なぜか栄一は『麻由美』という名前を聞くのを嫌がった。
どうして麻由美という名前が嫌いなのか、清司にはわからなかった。
栄一は清司を追い払うように手を振った。
「いつもいってんだろ。俺は一人でいたいんだ」
そういって、清司から離れていった。




