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清司と栄一は違うクラスになった。
清司は一組、栄一は七組。
かなり離れた。
清司は寂しそうな、不安そうな顔をした。
「何でだよう。僕も七組がいい」
しかし清司のクラスは一組だ。
栄一は小さく笑った。
清司が学校でもまとわりついてくるなんて考えられない。
清司は甘いものが大好きで、毎日ケーキやクッキーなどをむしゃむしゃ食べている。
栄一は甘いものは嫌いだった。そしてその甘いものを食べて幸せそうにしている清司を見るのが嫌だった。
栄一は清司が嫌いだ。金持ちで裕福な人生を歩んできたからとかそういうんじゃない。金持ちだといって妬むのは子どもだ。
栄一は清司の『誰かがいないと生きていけない』と思っているところが嫌いだった。
栄一がいないと、学校で過ごすのも不安で不安で仕方がない。
そして栄一がいると、鬱陶しく話しかけてくる。
栄一に頼り切っているのだ。
男のくせに、なんと格好悪いことだろう。
清司の将来の夢は立派な外科医になることだが、常に誰かに助けてもらえる状態でないと何もできなかったら、夢のまた夢だ。
栄一はずっと独りで生きてきた。
誰にも頼らず独りきりで生きていた。
これからも独りで生きていく。
いつまでもいつまでも生き続ける。
そして、あいつとの約束を果たす。
栄一は『あの夜』を思い出した。
絶対に忘れない、あの夜のこと。
最後にいいかけた、あいつの言葉……。
学校の休み時間は五分だった。
清司は毎日七組の栄一のクラスに行った。
しかし行っても栄一は教室にはいなかった。
結局登下校の時にしか栄一には会えない。
「いつもどこに行ってるの?」
清司が訊いても、栄一は何もいわなかった。
清司はクラスで人気者になった。
理由は父親が名外科医で、家も立派だからだ。
しかしそれは親の七光りというもので、清司自身は何もしていない。
親がいなくなったら、ただの太った小学生だ。
人気も何もなくなる。
全ては親なのだ。
それに比べ、栄一は完全にクラスで浮いた存在だった。
誰も気にしない。
いてもいなくてもいい存在。
けれど栄一は寂しくも何ともない。
むしろそうしてくれた方がいい。
名誉も何もいらない。
小学生がこんなふうに考えるのは変かもしれない。
栄一は自分は周りより少し年上のような気分でいた。
「栄一くんって、あんまりしゃべんないね」
部屋で明日の学校の支度をしながら、清司がいった。
「おはようとか、わかったとかばっかりじゃん。もっと何か楽しいこと話そうよ」
そういって、栄一の顔をじっと見た。
栄一は答えなかった。清司の顔を見返した。
いままで生きてきて、楽しいと思ったことなんて何もなかった。
そう、目で伝えた。
「もっと僕は栄一くんと」
「俺はお前と違うから」
栄一は清司の言葉を遮って、はっきりとした口調でいった。
「違う?どういうこと?」
清司は不思議そうな顔をした。
栄一は呆れた。
こんな簡単なこともわからないのか。
裕福に生きてきたせいで、赤ん坊の頭になってしまったようだ。
清司は栄一が「養子」だということをすっかり忘れていた。
話しをするのも面倒になってきた。
「ねえ、違うってどういうこと?僕たちは兄弟でしょ?」
もう一度清司が訊いてきた。
栄一は何もいわずに部屋を出て行った。




