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愛子が引き取られるのは二月の終わりだという話を聞いてから、時間はあまりにも早く過ぎて行った。
栄一は空き地にやって来た。あの、幸せだと感じた空き地だ。
栄一は毎日施設の外に行った。
施設の中にいたら、愛子と出会ってしまうかもしれないからだ。
もう諦めていた。すでに愛子が来る前の、一人きりでも何とも思わない自分に戻っている気がした。
「早く出て行けばいいのに」
誰もいない空き地の中で、栄一は小さく呟いた。
そしてついに愛子が引き取られる日がやって来た。
栄一はなぜかほっとしていた。心の中がすっきりした気がした。
「寂しくなるね……。栄一くん、愛子ちゃんと仲が良かったからね……」
すみれがいった言葉を、栄一は聞かなかった。
5時になると、外は一気に暗くなった。
愛子は荷物を施設の人間たちと一緒にまとめていた。
荷物といっても、死んだ父親の形見である白いマフラーと毎日の着替えだけだった。
愛子は施設のみんなにお別れの挨拶をした。女の子たちは寂しそうな顔をした。泣いている子もいた。
「愛ちゃん、元気でね」
「あたしのこと、忘れないでね」
うん、といって、愛子は笑っていた。悲しい別れにしたくないようだ。
「愛子ちゃん、幸せになってね」
すみれも愛子にいった。
「はい」
こくりと頷いた。
そして、そっと小さな声で訊いてきた。
「……栄ちゃんは、どこにいるんですか……」
「栄一くん?」
「はい。さっきから探してるんですけど、どこにもいなくって」
「部屋にいるんじゃないの?」
「いないんです。どこにもいないんです」
「そうなの?」
すみれは前にも一度、同じことがあったことを思い出していた。
クリスマスの夜、栄一は必死に愛子のことを探していた。
裏口から外に出ていたのかも、といったら、大声で怒鳴られたのだ。
愛子も必死に栄一を探している。二人の仲の良さは、いつも一緒にいるすみれにもわからなかった。
「外にいるんじゃないのかな」
愛子は大きな目をさらに大きくした。
「外?」
「うん。最近、栄一くん、外に出てることが多いの。もしかしたら、外にいるのかもしれない」
すると愛子はくるりと素早く後ろを向いた。
一緒に探しに行こう、とすみれがいおうとした時、すでに愛子は事務室のドアを開けていた。




