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清司がピンク色の紐を触ろうとして清司と栄一の間に壁のようなものができてしまった。
清司は落ち込んだ。
ショックだった。あんなことしなきゃよかった。
清司には兄弟がいなかった。
ずっと一人ぼっちだった。
両親もいるし、お手伝いのおばさんもいるし、大きな庭の手入れをしてくれるおじさんもいる。
みんな清司のことを可愛がってくれた。
しかし清司は兄弟が欲しかった。
兄弟がいる同い年の子が羨ましかった。
取っ組み合いのケンカとか、やってみたかった。
だから栄一が来てくれて、本当に嬉しいのだ。
早く仲良くなって、一緒に遊んで、時にはケンカもして……
清司は栄一に謝った。
「ごめんね、勝手なことして」
栄一は「別にいいよ」と面倒くさそうにいった。
許してくれたのかどうかわからなかったが、とりあえず気持ちはほっとした。
清司と栄一は小学校に入学することになった。
清司は緊張して、何度も手のひらに「ひと」と書いて飲み込んだ。
栄一はただぼうっとどこかを眺めていた。
何だか誰かに話しかけるように口を動かしていた。
満開の桜の下で散った花びらを踏みながら、二人は学校に向かった。
式の間中、ずっと清司は体を固くし背筋をピンと伸ばしていた。
栄一は椅子にもたれかかるように座り、どこか遠くを見ていた。
式が終わり家に帰る時、清司は栄一にいった。
「たくさん友だちができるといいね」
どきどきしながらいった。なぜか栄一と話す時は汗が出てくる。
栄一はちらっと清司の方を見ると、口早に答えた。
「俺は一人でいい。友だちも何もいらねえよ」
清司は目を見開いた。
栄一はいままで「おはよう」や「よろしく」という、短い言葉しかいわなかった。
こんなに長いセリフは初めてだ。
「どうして?」
清司はさらにどきどきしながら訊いた。
「どうして、一人でいいなんていうの?寂しくないの?」
栄一は清司の驚いた顔を見た。
「寂しくない。寂しいと思ったら負けだ」
しっかりした口調でいった。
寂しいと思ったら負け………
清司はよく意味がわからなかった。
……そう。栄一はわからない。どういう人物か、どんな思いで生きているのか。どんなことを考えているのか。
「でも、僕たちは兄弟だよね。兄弟だよね!」
清司は何度もいった。
栄一は何も答えず歩き続けた。




