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年が明けて、施設の中は明るい雰囲気になった。

ボランティアのお兄さんはお年玉の代わりにお菓子を渡してくれた。

またお菓子かよ、と栄一は思った。

しかしお金を渡すことは禁止されていた。

ボランティアのお姉さんは、おせち料理やお雑煮などを作ってくれた。

施設にいる女の子たちはみんな手伝った。その中で、愛子の作った料理は絶品だった。

愛子は手先が器用で、何でも作れた。しかも全てがおいしい。母親がおらず父子家庭だったのにすごいな、と栄一は驚いた。


施設の子どもたちは、ボランティアのお兄さんやお姉さんと一緒に初詣に行くことになった。

近くに小さな神社があるのだ。

ひび割れて、いつ作られたのかわからない。神様がいるのかどうかも怪しかった。誰も気が付かないようなところにぽつんと建っていた。

もちろんお賽銭を投げることは出来なかった。ただ神社の前で合掌をしてお辞儀をしただけだ。

これだけで神様は願いを聞いてくれるんだろうか。

栄一は誰よりも長く手を合わせていた。何度も同じ言葉を心の中で繰り返した。

愛子も栄一の隣で手を合わせ、目を閉じていた。

栄一は私服だが、愛子は着物を着ていた。

着物を着た愛子は、可愛いというより綺麗だった。

安い着物も、愛子が着れば上品な物に変わる。

それが栄一の胸を熱くした。


クリスマスの夜から、何となく愛子も栄一を意識しているように見えた。

目が合うと、恥ずかしそうに顔を赤くした。そして、にっこりと笑った。

話しをする時の仕草が、以前よりもずっと女の子らしくなった。

そして、それが栄一と一緒にいる時にだけ見せる愛子だった。

栄一は毎日どきどきした。

まだ六歳なのに、こんな気持ちになるのはおかしいのだろうか。



だが突然、愛子が栄一と会わなくなった。

家庭科室から出てこないのだ。

家庭科室はほとんど女の子しか使わない。

何をやっているのか訊いても、笑って誤魔化されるだけだった。

「いつも一人きりで部屋の角に座ってるわよ」

すみれはそういっていた。


栄一に内緒で、一人きりで作っているもの。それは何だろうか。


愛子が閉じ篭るようになってしまい、栄一は一人でいることが多くなった。

愛子が施設にやってくるまで、栄一は誰とも繋がらず、一人ぼっちだったし、そんなに苦痛ではなかった。

しかしやはり本音をいうと寂しかった。


そして、この『寂しい』という気持ちに、栄一は動揺していた。


『寂しい』と思うのは、誰かに愛されていたからだ。

相手に愛されるから、相手を愛する。

その愛されていた人との糸が切れたから『寂しい』と思うのだ。

栄一はいままで誰とも糸を繋がなかった。

だから『寂しい』と思ったことなど、一度もなかったのだ。

いま、栄一は『寂しい』と思っている。

この心の動きに驚いていた。


愛子に会えなくて、寂しい……

一緒にいたい。ずっとずっと、隣で笑っていてほしい……


人間は一人では生きていけない。

必ず誰かと糸で繋がっていないといけない。

そしてその糸がクモの巣のように次々と増えて、複雑に絡み合う。

糸はだんだん太くなって、簡単には千切れないようになるのだ。

栄一は、初めて繋がれた愛子との糸を切るわけにはいかなかった。

切れてしまうのが、怖くて仕方がなかった。




クリスマスの夜、愛子は一人でどこかに行ってしまった。

愛子は綺麗な星空を栄一に見せたかったから、空き地で待っていたらしい。

きっと栄ちゃんは、あたしを探しに来てくれるだろう……。

愛子は栄一を信じて、待っていたのだ。

愛子の考えた通り、栄一は愛子を探しに行った。

そして二人きりで、綺麗な星空を眺めた。




また愛子は一人で家庭科室に篭っている。

次は何をしようとしているのか、栄一には全くわからなかった。

日に日に愛子との糸が細くもろいものに変わっていくのが怖くて、栄一は不安に押し潰されそうになった。


まさか、自分が寂しいと思うなんて……


『寂しいと思ったら負けだ』


栄一がいつも思っていることだった。

『寂しい』という気持ちに、負けるわけにはいかなかった。















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