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クリスマスの夜、施設の中は小さなクリスマスパーティーが開かれた。ボランティアのお兄さんやお姉さんが着ぐるみを着て、子どもたちにお菓子を配った。

みんなが楽しそうに笑っている。小さいけれど、幸せを感じていた。


しかし栄一はそんな幸せなど感じていなかった。

あせりと不安が心の中を渦巻いていた。

愛子がいないのだ。

部屋は全部見たし、帰って来るのをずっと待っていた。だがいつまで経っても愛子の姿が見えない。

どこへ行ってしまったのだろうか。


すみれにも訊いてみた。しかし「見てないよ」と簡単に返事をされて、一緒に探してくれなかった。


そうして愛子探しをして、すっかり外は暗くなってしまった。

栄一は心配で仕方がなかった。

もしかして外に出て行ったんだろうか……。

でも玄関に靴は置いてあった。こんなに寒い時に、靴をはかないでどこかに行くのはちょっと考えられなかった。


「栄一くん、メリークリスマス」

すみれがお菓子を持ってやってきた。しかし栄一は受け取らず、愛子のことについてまた訊いてみた。

「え?部屋にいないの?」

すみれは驚いて目を大きくした。

栄一は頷いて、すみれの目を見返した。

「外に出て行ったのかもしれない」

体を固くして栄一がいうと、すみれは困ったような顔をした。

「でも、玄関には施設のおばさんがいるじゃない」

「そうだけど……靴は置いてあったし、何で一人で外に出て行ったのかもわからないんだ。どうしよう」

話しているうちにだんだん弱気になっていく自分が情けなかった。

「どうしようっていわれても……」

すみれは俯いた。

すると突然何か思い出したように、顔を上げた。

「……もしかして、裏口のドアから出て行ったのかもしれない」

「裏口のドア!?」

栄一は大声を出した。

「そういえば愛子ちゃん、鍵がかかってる部屋のドアをヘアピンで開けたことがあった。愛子ちゃんは手先が器用だから、もしかしたら……」

「何でそんな大事なこといわなかったんだよ!」

怒鳴りながら栄一は事務所の部屋に向かって走った。




裏口に行くと、ドアが半開きになっていた。

ドアの前に置いてあるはずのスリッパが一組なくなっていた。

栄一は靴下のまま外に出た。

施設の裏は大きな木が固まって立っていて、小さな森のようになっている。

真っ暗なまま栄一は森の中を歩いた。

コートも何も着ていないので、栄一の体はぶるぶると震えた。

冷たいナイフのような風が、栄一の体に突き刺さった。


次に花公園に行った。

しかし愛子はいなかった。ぼんやりと花が見えただけだった。

近くの空き地にも行ってみた。

あさがお園の周りには目立った建物は建っていない。ほとんど空き地だ。施設の子どもたちの遊び場として使われている。

少し離れた場所も見に行った。

けれど栄一の前に、愛子は現れなかった。


栄一は広い空き地の角でしゃがんだ。

体が氷のように冷たい。

まずい、思った。

これ以上ここにいることはできないと思った。

仕方なく、施設の方にがたがたと震えながら歩いて行った。

もう声も出せなかった。

ふらふらと栄一は、施設に向かった。

その時、ふと顔を上げた。

何となく、誰かが見ている気がしたのだ。


そこには、栄一が今まで見たことのないような綺麗な星空が広がっていた。

栄一は足を止めてそれを見つめた。


こんなに綺麗なものが、この世にあったとは………


あまりの美しさに、栄一はそこから目を離せなくなった。

栄一が見てきた空は黒い塊が浮かんでいた。

世の中の汚らしい泥のようなものが、栄一を見下ろしていた。

空が綺麗だと思ったことなんてなかった。


「素敵でしょう?」

突然横から声が聞こえて、栄一は驚いた。

愛子が栄一を見ていた。ふふふっと小さく笑っていた。

栄一は目を鋭くして愛子を見た。

どれだけ自分が心配していたか、愛子にいおうとした。

すると愛子はだめだよ、というように栄一の口元に人差し指を近づけた。

せっかくこんなに綺麗な星空が見えるのに、そんなことをいうのはやめようよ……愛子は大きな目でそういっていた。

次に美しい夜空を指差した。

「これが、あたしが欲しかったクリスマスプレゼントだよ」

小さな声でそっと呟き、じっと栄一の目を見つめた。

栄一は固まったまま、その目を見返した。目を逸らせなかった。

「これはお父さんと一緒に見た星空だよ。お父さんは死んじゃったけど、星空はちゃんと生きてるの」

愛子は星空を見つめた。栄一も星空を見た。

きっとびっくりすると思うよ……クリスマスプレゼントを訊いた時、確か愛子はそういっていた。

愛子はまた話し始めた。

「何もないところの方が、星は綺麗に見えるんだよ。ここにはあたしたちしかいないでしょう。何もなくても、こんなに綺麗な星空が見られるの」

そして、そっと栄一の手を握った。

栄一はどきっとした。寒いはずなのに、なぜか体の中が熱くなった。

「ねえ、栄ちゃん。クリスマスに何もプレゼントをもらわない子どもはいないんだよ」

愛子の体の熱が栄一の体に伝わって、栄一の心の中が暖かくなっていく。

栄一も強く愛子の手を握り返した。

「サンタさんじゃなくてもいい。お父さんでも、お母さんでもいいの」

「うん」

声を出した。そうしないと、そのまま溶けてしまう気がした。

「だから」

愛子が栄一の顔を覗き込むように見た。

「あたしが、綺麗な星空を栄ちゃんにプレゼントするよ」

栄一は体をさらに固くした。握っている手の力も強くなった。

「メリークリスマス。栄ちゃん」

愛子が小さく呟いた。手のひらをぎゅっと握られた。

初めて、自分は幸せだ、と思った。


しばらく二人は、美しい星空を眺めていた。











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