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「聞いてよ!栄一くん!大ニュースだよ!」
清司が踊るように部屋に入ってきた。
手には一枚の紙が握られていた。
「大ニュース?」
「うん!びっくりだよ!」
清司は大興奮して、体を震わせていた。
「僕、結婚することになったんだ!」
「えっ?」
驚いて、栄一はどきりとした。全く思いつかない話だったので、少し動揺した。
確かに大ニュースだ。
「婚約者ってことか」
「そう!婚約者がいるなんてすごいことだよ!?ねえ、すごくない?ねえ?すごいよね?」
清司がしつこく顔を近づけてきた。
「まだ結婚するまで三年あるぜ」
「でも、三年後には必ず結婚できるんだよ!すごいよね!婚約者がいるって、すごいことだよね!」
清司の嬉しそうな顔を見ると、栄一は気分が悪くなる。
「ふうん。よかったな」
適当にいって栄一は歩き出した。その場から立ち去ろうとした。
だが、清司は栄一の腕を掴んできた。
そしてこんなことをいった。
「僕の婚約者のこと、いろいろ知りたいんじゃないの?」
すぐに栄一の胸の中にざわざわと黒い何かが湧き上がってきた。
「何で俺がお前の結婚相手のことを知りたいんだ」
「だって、僕たち兄弟でしょ?兄弟の婚約者のこと、知りたいでしょ?」
栄一はため息をつき、明らかに嫌がっているようにいった。
「興味ねえよ。そんなこと」
しかし清司は気付かず、話し出した。
「名前は麻由美さん。同い年。母親がいなくて、父子家庭なんだって」
「興味ないっていってるだろ」
栄一は大きく腕を振って、清司の手を放した。
その時、清司の手から握っていた紙が落ちた。
紙ではなく、写真だった。
「あっ」
すぐに清司はしゃがみ、写真を拾った。
「麻由美ちゃんの写真、落とさないでよ」
そういいながら、写真を栄一の方に見せた。
綺麗な長い茶色の髪、透き通った白い肌、大きく開いた瞳。白い肌に、さらに白いドレスのようなワンピースを着て、にっこり微笑んでいる女の子が写っていた。清司にはもったいないくらいの美少女だった。
栄一の目が一瞬大きくなったのを、清司は見た。
そしてすぐに、どこか遠くを眺める目になった。
小学校入学式の時に見せた目だ。
栄一の顔を見ながら、清司は思った。
栄一くんは、麻由美ちゃんに見惚れているんだろう。
そして、将来自分はこんなに可愛い女の子と結婚できるかどうか、不安なのだろう。
清司は励ますように、栄一にいった。
「大丈夫だよ、栄一くん。きっと栄一くんも、可愛い女の子と出会えるよ」
栄一は、目だけ清司の方に向けた。睨んでいるような目になった。
そして何もいわずその場から立ち去った。




