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清司の父親、北原幸司は、大学病院の外科医だ。
彼のメス裁きは見事で、たくさんの人々から認められた。
院長の信頼も強く、病院内では有名な外科医だった。
清司は父のことを尊敬して、「自分も大人になったら父さんみたいな外科医になる!」と決めていた。
外科医になって多くの患者を幸せにしたい……。
たくさんの人々を笑顔にしたい……。
それをしている父が誇らしかった。
幸せだった。
そんな日々を過ごしていたある日、突然知らない少年が家にやってきた。
名前は杉尾栄一。
六歳で同い年だが、もう何歳も年上のような感じがした。同い年だなんて思えなかった。そしてものすごく痩せていた。
いや、ただ清司が太っていただけなのかもしれないが。
母から「栄一くんはお父さんとお母さんがいないの。だから、一緒に住むことになったのよ。仲良くしてあげてね」といわれた。
お父さんとお母さんがいない?
まだ六歳の清司にはよくわからなかった。
部屋に入って来た栄一に清司は自己紹介をした。
「僕の名前は清司だよ。呼び捨てでいいよ。栄一くん、今日からよろしくね」
すると栄一は小さな声で「よろしく」と目を合わせずに答えた。
その後も何か話すのかなと思ったが、結局「よろしく」しかいわなかった。
栄一が寝る部屋は清司の隣になった。
なぜかすごく緊張してよく眠れない。
翌朝目が覚めて部屋を出ると、もうすでに栄一は起きていた。後ろ姿もほっそりとしていた。
「おはよう。栄一くん」
清司が声をかけると、栄一はまた小さな声で「おはよう」と目を合わせずにいった。
まだ「よろしく」と「おはよう」しか聞けていない。
目も合わせてくれない。
仕方なく清司はそのまま彼の隣に座った。
その時、ふと栄一の左手首に目がいった。
何かが巻かれている。
よく見ると、薄いピンク色の紐だった。
「何これ?」
清司は紐に手を伸ばした。
すると栄一はぎっと睨み、「触るな」と低い声でいった。
その眼光の鋭さに、清司はびっくりして一瞬体が固まった。
「えっ……、なに……」
清司が手を引っ込めると、栄一は立ち上がって部屋から出て行ってしまった。
清司にはわけがわからなかった。




