18
食堂に行くと、待ってましたという感じで雪男が近づいてきた。
「今日は麻由美の好きなものばかりだからね。たくさん食べなさい」
麻由美は無視をして椅子に座り、テーブルの上に置いてあった水を飲んだ。
雪男は面白くも何ともない話を麻由美に話した。麻由美は雪男の話を聞かずに食事をした。
雪男はお酒を飲んでいた。強い方だとみんなに自慢している。
「まゆみい、父さんの話、少しは聞いてくれないかあ」
赤い顔で麻由美に話しかける。
麻由美はいい加減にしてよ、という顔で雪男を見た。
周りにいる者たちは冷や冷やした顔で見ていた。麻由美が雪男のことを嫌っているのは、ほとんどの者が知っている。
その時、雪男が大きな音を立てて椅子から転がり落ちた。
すぐに側にいた人間が駆け寄り「大丈夫ですか!?」と雪男の体を持ち上げた。
「医者を呼べ!」
誰かがそういい、誰かが電話をかけに廊下に出て行った。
奈那子は口に手を当てて、固まっていた。
パニックに陥っていた。
そして、すぐ側にいた麻由美に目を向けてさらに驚いた。
麻由美は全く顔を変えずに、じっと父親の体を見ていた。
少し笑っているようにも見えた。
救急車で病院に運ばれた雪男は、しばらくするとベッドから起き上がった。
「またいい気になってしまった」
酒の臭いがするため息を吐いて、反省したように項垂れた。
「この間もいったでしょう。お酒はほどほどにしてくださいって」
医師の言葉に、また雪男は息を吐いた。
四年ほど前に、酒をこれでもかというほど飲み、雪男は気を失ってしまった。
その時はもう気を失うことはないと思ったが、次も酒を大量に飲んで倒れてしまった。
しかし雪男は酒がないと生きていけないくらいの酒豪だった。
それから何度も同じことをくり返し医師に迷惑をかけているが、雪男の酒好きは止まらない。
雪男は周りの人間たちに謝った。
「すまなかった。しばらく酒は飲まないように気をつけるよ」
「もうやめてください。こっちが気を失います」
全員が、ふうっと安堵の息を吐いた。
「びっくりしました。何か悪いものがお料理に入っていたのかと思って……」
奈那子は今回が初めてだった。本当に気を失いかけた。
雪男は人騒がせな人間だ。
誰かがいなきゃ、生きていけないのだ。
麻由美は無表情で少し離れたところから眺めていた。
心配しているふうには見えなかった。




