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『カンニング男』と呼ばれるようになって、一週間が過ぎた。
馬鹿な奴らに馬鹿なセリフを聞かされ、栄一はうんざりしていた。
栄一は、平和そうに生きている清司の顔を毎日見ていた。
絶対に許さない。
そして自分が結基のいいなりになってしまったということも、後悔した。
「勝手にしろ」といえばよかった。相手にしなければよかった。
自分が情けなくて、堪らなかった。
ある日栄一は学校帰りに、いろいろなところをぶらぶら歩いてみた。
空はすぐ暗くなり、街灯の灯りしか見えなくなった。
自分が迷子になっていることにも気付いていた。
しかし真っ直ぐ家に帰る気がなかった。
もうこのまま、夜の冷たい空気に溶けて消えてしまいたいと思っていた。
しばらくすると、栄一は人の気配のない商店街に来ていた。
誰も歩いていない。というか店がもうボロボロに廃れていた。
店内は荒れ放題。店長も店員も商品も客もいない。
シャッターを閉め、壁に落書きされ、看板の文字はペンキが剥げ落ちて読めない。
だが店の数は多い。
たぶん、昔一番栄えていた商店街なんだろう。
いまはただの邪魔な建物に変わってしまった。
栄一は一番手前の店に入ってみた。
ラーメン屋だった。ボックス席とカウンター席があり、椅子の数が多かった。繁盛した店だったようだ。
埃が多くてむせた。栄一が足を入れた途端、何層にも重なった埃が舞い上がった。
栄一は転がっていた椅子につまづいた。埃が顔中に舞い散って、咳が止まらなくなった。
一旦店から出て、息を落ち着かせた。
そして改めて外から読めなくなった看板を見上げた。
昔はたくさんの人が通っていたはずの場所。
しかしいまは誰もいない。
何も残さず、こうして廃れていった。
もうここには誰もこないだろう。
栄一は思った。
自分も、こうして忘れられてしまうのではないか。
今は清司の家にいる。けれど大人になったら、自分はどこへ行けばいいのか。
この商店街のように忘れられ、居場所がなくなったら……。
栄一は頭を振った。
そんなことを考えても、ただ辛くなるだけだ。
そして、栄一はこの廃れた商店街を次の殻にした。
いままで殻にしていたのは「あさがお園」だ。
もう八年も行っていない。そろそろ新しい殻を見つけなければいけなかった。
殻の中では、栄一は何でもできる。
清司にいいたいけどいえないことや、学校の不満などは殻の中で思い切り叫ぶ。
そうしないと栄一の胸の中は一杯になってしまう。
いいたいことは全部殻の中にしまい込む。
そして誰にも見せない。
けれどあいつには殻の中を見せられる。
六歳の時、あいつが最後にいおうとしていた言葉を聞くまで、栄一は殻の中で生きていく。
蝉みたいだな、と栄一は小さく笑った。




