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本多結基は拳を固め、唇を噛んだ。
また自分は一位になれなかった。
悔しい思いで成績表を睨んだ。
あの杉尾栄一とかいうやつ……。
どこかからいきなりここに引っ越してきた、あの男。
杉尾栄一が来なかったら、自分はずっと一位のままだったのに。
結基は両親が大学教授だった。
立派な親に育てられ、結基は満足していた。
小学生の時は毎回テストは100点。
成績表の一番上に書かれるのは「本多結基」という名前だった。
結基はそれが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
「俺の父さんと母さんは大学教授なんだぜ。すごいだろ」
会う人みんなににやにやと笑いながらいった。
結基の将来の夢は「大学教授になること」だった。
しかし中学生になってから結基は二位や三位になってしまった。
杉尾栄一という男がやってきたからだ。
小学校が違うからどういう人物かわからない。
いつも栄一のテストの成績は一位だった。
こんなの全然難しくない、という顔でひょいひょい答えを当てる。
結基はもちろん栄一を憎んだ。
「杉尾がいなかったら、俺が一位なのに」
何度も呟いた。
さらに母から冷たいお説教が飛んできた。
「結基、最近テストの点数が落ちてきてるけど、どういうことなの?ちゃんと先生の話を聞いてるの?」
ごめんなさい、と小さく答えるしかなかった。
「ちゃんと一位を獲りなさい。もっともっと勉強しなさい」
母の言葉を聞きながら、結基は栄一の顔を頭に浮かべた。
「こんなんじゃ、大学教授になるなんて無理ね」
毎回このセリフで説教が終わった。
結基は栄一を憎んだ。
中学も自分が一番だと思っていたのに。
あいつが突然ひょっこりやって来たせいで、将来の夢が壊れるなんて絶対に嫌だ。
結基の頭の中は栄一でいっぱいだった。
許さない………。
何としてでもあの杉尾栄一を落としてやらなきゃ、気が済まない。
しかしやはりテストは栄一の方が勝っている。
どんなに勉強しても、栄一に負けてしまう。
栄一がどういう小学校生活をしてきたか、どうやって勉強をしていたかは結基は知らない。
運動も栄一の方が勝っていた。
結基は勉強ばかりしていたせいで、全く体を動かせなかった。
結基の、栄一への憎しみや恨み、妬みは日に日に大きくなっていく。
どうしたら栄一に勝てるだろうか。
勉強は無理だ。運動も無理だ。
……もう、勝てる場所なんてひとつもない……。
結基は落胆した。
しかしある時ふっと思いついた。
『栄一の弱点を掴もう』と思ったのだ。
そうだ。栄一の弱点を知れば、栄一に勝てるかもしれない。
結基はどきどきした。
興奮した。
そうか!
その手があった!
どうしていままで気づかなかったのだろう!
思わず結基は飛び跳ねた。
「見てろよ……。調子に乗ってられるのは、いまだけだ」
栄一の横顔を見つめながら、結基は小さく呟いた。




