1/92
0
「じゃあ、行ってくるね。お父さん」
玄関の前に立ち、娘の真衣がにっこりと微笑んだ。だが、やはり少し緊張しているように見えた。
「行ってらっしゃい。早く友だちができるといいな」
清司もにっこりと微笑んで、軽く右手を挙げた。
今日から真衣は小学生になる。
さなぎの次期が終わり
新しい空へ飛び出すのだ。
きっと彼女の胸の中は期待と不安でいっぱいだろう。
自分もそうだった。
いったいこれから何が起きるのか、あの時は全くわからなかった。
『あいつ』はどうだっただろう。
あの鋭い目つき、大人っぽい態度、そしていつまでも生き続けてやるという強い信念……とても七歳の少年には見えなかった。
三十年以上経っているというのに、未だに『あいつ』が何者なのか、よくわからない。
『あいつ』の『殻』はなんだったのか、わからない。
きっと一生わからないだろう。
だがその答えは聞けない。
もう『あいつ』には会えないからだ。
昔を思い出し、清司はそっと、目を閉じた。




