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ヒック・・・グスッ、グスヒッ・・・―――

雪の降りしきる中の、誰もいない路地。

錆びれ切った鉄で出来た柵。それに囲まれているのは厚い雪が覆ったしがない広場。

もう、人々には忘れ去られた場所。

そんな広場の入り口に、たった一人座り込んでいる小さな少女のか細い泣き声が哀しく響く。

何時間そうしているのかは、誰も知らない。

ただ、無造作に結わえられた長い二つ結びの髪の毛は凍りついたように動かない。

頬や鼻は微かに赤くて、冷たい空気に晒され続けたことが伺える。

グスン、ヒック・・・―――

ただ、泣き続ける。

そこを、一人の男が通りがかった。

手には買い物袋が抱えられている。寒そうにマフラーを巻き直しながら近道をしようとこの付近を通った模様。

そんな時に聞こえた子供の泣き声に惹かれて、子供の元にやってきた。

「お嬢ちゃん、どうしたんだい?」

口を開いた時に入ってきた冷たい空気。その所為で歯がカチカチと合わさりそうになるが、ぐっと堪えて問う。

ただ、泣き声が返ってくるだけで返答は無い。

男は思わず苦笑して言った。

「こんなところで泣いていて、寒くはないのかい?」

少女の首が僅かに縦に動いた。

実際はとても寒いのだろうが、どうしても立ちたくないのだ。

泣くことを止めない少女に男は嘆息した。

「そんなに泣いてちゃ幸せになれないぞ。」

その一言で子供は泣き止む。

泣く事を止めずに男の顔を見る事すらもしなかった少女があっさりと泣く事を止めた。

「・・・・・・・・・って、“シアワセ”ってなぁに?」そう言いながら不思議そうな顔を男に向ける。

瞬間、男は息を呑む。子供の目は・・・―――。

頬には涙のあと。目元は赤く腫れている。だがそんな顔のなかで、少女の瞳は圧倒的に目立っていた。

再度子供は問う。

「?おじさん?ねえ、”シアワセ”ってなぁに?私でもなれる?」

男はハッと我に返る。あまりに驚き過ぎて、少女を凝視していたことに気づいた。そして、少女から目を逸らしながら、遠慮がちに答える。

「そ、そうだね・・・。君に、強く、優しく、人を憎まない、そんな心があればきっといつか・・・。」

気まず気な口調。歯切れの悪い言葉。だがまだ幼い少女は人の感情に疎いようで、そのことには気付いていない。

むしろその言葉で完全に笑顔を取り戻すと

「じゃあ私シアワセになる!おじさん、ありがとう!」

と言った。

まだ目の周りに残っていた涙の粒を服の袖でごしごしと拭き、元気を取り戻した少女は足取り軽やかに去って行った。その背中を見送りながら、男は目を閉じ小さく呟く。

「どうか、あの子に神のご加護があらんことを・・・―――。」


―――それから、

季節が巡り、時は流れ十数年。

季節は秋に入る頃であった。


群衆で賑わう広場。人波が絶えない道。平和な国、此処サンルーク。

見世物屋の劇場やら、魚や野菜を競る店。アクセサリーなんかを売る露店もある。

そのいずれも店の周りには人だかりが出来ている。

それに、負けず劣らず人が集まる路地の一角。

そこに突然怒声が響き渡る。

「近づくんじゃねぇよ!!この悪魔!」まだ二十代半ばくらいの男に打たれてその場に倒れこむ年若い女の姿。

人だかりは、事の成り行きを面白そうに眺めている野次馬達によるものだ。

「女であっても悪魔だったら死ねばいいんだ!」

そう吐き捨て嫌悪の眼差しを向けた男。

「確かになぁ。いても迷惑だし。」

「しっ、聞こえちゃうわよ。・・・クスクス。」

それに同調するかの如く、周囲からは囁き声と小馬鹿にした笑い・・・。

その野次馬達の周りで通りがかる人たちも、女に話しかける、もしくは手を貸そうとする者はおらず、全ての人間が静観しているか、迷惑そうに嫌悪の眼差しを向けているかであった。

この世界では、十数年に一人という確率で左右で瞳の色が異なる人間が生まれる。何時からそのような人間が生まれるようになったのかは不明。ただ、宝石のような鮮やかな色の瞳と、二つの色が混ざった様な色の瞳との組み合わせで生まれることが確認されていた。そしてこの状態では、普通の人間となんら変わりがなく、普通に生活する事ができる。

しかし、その人間の中でも、非常に稀な存在が片目に模様が入っている「呪い」を持つ人間だ。この瞳を持っているものは、瞳を媒体に、呪いが絶えず発せられる。故に“呪いの瞳”と呼ばれていた。

そして、女は灰色にうっすらと緑がかった瞳と、エメラルドや翡翠の様に美しい緑の瞳の持ち主であり、その上模様入りの瞳、即ち“呪いの瞳”を持っていた。


女の名前はルーネット・ケファー。二日後に十八歳になり、成人を迎える。

ルーネットは、打たれたところをさすりながら、ゆっくりと立ち上がる。そして人の目から逃げるように、また人波の間を縫う様にして駆けていった。


家に帰り着くと、入り口の扉を静かに閉めた。

そして、その前に佇む。

「今日も・・・、シアワセにはなれなかった。」その呟きは、哀しそうな響きを持っていた。

幼き頃出会った男に言われて、初めて見つけたなりたいモノ。ルーネットにとって“シアワセ”とはそんな存在だった。

幼い頃は、好奇心故にただシアワセが知りたくて求めた。

だが今は。“呪いの瞳”を持っている。その事実の所為で『ルーネット』という存在を人々は拒絶した。蔑み、嘲笑った。

それ故に、ルーネットは強く且つ純粋にシアワセを求めた。

「やっぱり、呪いの瞳を持った私にはおこがましい夢なのかな・・・。」

そう呟いた瞬間一筋の涙が頬を伝う。その涙を静かに拭いながら机の上に手を伸ばす。

そこには「ルーネット」と書いた紙があった。

(親は私に名前だけを与えた。育ててくれたのは血は繋がっていない赤の他人。・・・皮肉だな。)

口の端に自嘲の笑みを浮かべながらそう、思った。否、名前を与えてくれていただけ、まだましな親なのかも知れない。

兎に角、何故紙に書いてあるのか。ルーネットには生みの親などの記憶はない。生きているのか、それとも死んでいるのか。それすらも知らない。―――今となってはどうでも良い事だったが。

ルーネットは元々捨て子で泣き声をあげる赤ん坊のルーネットのそばにはこの紙が添えてあったという。

拾ってくれたおばあさんは、クラリス・ケファーという名で、その姓を貰い、ルーネット・ケファーと名乗っている。

戸籍上も、きちんと国に申請してある為、ルーネットはクラリスの娘となっている。

しかしそのクラリスも先月亡くなってしまった。

「この国は・・・、私を否定する・・・―――。」

この国に独りとなってしまったルーネット。人に蔑まれ生き続ける日々。

ただ、心が傷ついていくだけの辛い場所になってしまったのだ。

だからこそ、ルーネットは決意していた事がある。

「この国を、出て行こう。」

楽しい思い出は少しずつ色褪せていく。それでも、クラリスとの思い出と離れたくなくてずるずるとこの国に留まっていた。

しかし、今日決心した。

「色々な国を見て、いろいろな人と会って、そして、私の事を認めてくれる人たちのいるところを探しに。」

この国にいてもシアワセにはなれないと確信したからだ。二日後の誕生日にまで人々に蔑まれる気はない。

成人してからも然り。

「明日。明日のうちにサンルーク国を発つ。」

後悔はしない。シアワセの為なら。

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