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だいぼうけん  作者: ロボ
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第八話 やくそく

 あいつらが出ていってからも、遙はずっと震え続けている。

ぶるぶると震えているハルを安心させるために、できるだけ体をくっつける。

ぼくはここにいるよと、ハルに伝えたくて。

ぼくの肩に顔を埋めて、ハルが泣いてる。

「しゅーちゃん……怖かった!怖かったよ……」

こんなに怖がってるハルを見るのは、はじめてだ。

 

 なんとかしてあげたい。

 でも、いまのぼくには、泣いてるハルを慰めてやることもできない。

「大丈夫だよ」といって、背中をなでてやることもできない。

いまこの手が動くなら。泣いてるハルを慰めてやれるなら。

ぼくはなんだってするのに。

「だいじょうぶだよ。泣くなよ、ハル……」

それだけを、繰り返し言い続ける。

そんなんじゃハルが泣きやまないことぐらい、わかっているのに。

でも、いまのぼくにできることは、これだけだから。

だから、なぐさめながら、そばにいる。


あいつら。ハルをこんな目に遭わせて。

絶対、許さない。

絶対に。


 けれど……

 あいつら、どうして僕らを誘拐したんだ?

そうして、ぼくは考えて。

気が付いた。

気が付きたくなんかなかったことに。


 体が震える。

今、震えちゃだめだ。

ハルが震えてるのに、ぼくまで不安になったら。

けれど、ふるえは止まらない。

いまとなりにいるハルに、たすけてもらいたい。

寒気がする。いまは夏で、ここはこんなに暑いのに。


「しゅーちゃん、どうしたの?」

とうとう、ハルに気づかれた。

「なんでもないよ」

「うそ!しゅーちゃん、真っ青だよ!」

「ほんとに、なんでもないって!」

気づかれちゃだめだ。

いまのハルに、こんな事を教えたら。


 ハルが、壊れちゃう。


「……しゅーちゃんも、なんにもいってくれないの?」

なんにも知らないハルが、泣きながら言う。

「おとーさんやおじさんたちみたいに、なんにもいわずにわたしだけのけものにするの?」

言えない。それでも、言えない。

父さんたちが、なんでぼくたちを止めたのかはわからないけれど。

言えない理由は、よくわかる。

でも……


 (このまま話さなくても、ハルは壊れちゃうんじゃないか?)

(こんな事を隠していることがわかったら、もう二度とハルは口を利いてくれなくなるんじゃないか?)

目の前のハルは、すっかり元気をなくしてる。

こんなの、ハルじゃない。

言っても言わなくても、ハルが泣くのなら。

ぼくたちがどんなことになっているのか知ってから泣く方が、まだいいはずだ。

いつものハルなら、そう思うはず。


「しゅーちゃん?」

ようすが変わったのが、わかったらしい。ハルが、すこし不思議そうな声を出した。

「ハル……落ち着いて、よく聞いて」

まだしゃくりあげながら、ハルがうなずく。


「なあ、ハル。ぼくたちが東京に行くこと、誰かに言った?」 さっきから、ずっと気になっていたこと。

「ううん。行けるかどうかわからなかったし、夏休みだからあんまり友達に会わないし」

「だよね。ぼくも、言ってない」

「それがどうかしたの?」不思議そうなハルに、説明する。

「ハルも言ってない。ぼくも言ってない。じゃ、いったいどうして、あいつらはぼくたちがここにいることを知ってたの?」

また、震えが来た。

「僕らを誘拐しようとするなら、絶対にぼくらの町でするはずだよ。というより、他の場所で誘拐なんてできるわけがないよ。

 それなのに、あいつらはわざわざ東京で僕らを誘拐した。しかも、予定表の通りの場所でね。

とすると…あいつらはぼくたちが東京に来ることも、この時間に原宿にいることも、全部知ってたことになる」

 

「だれか、わたしたちの予定を知ってるひとが、あいつらにその予定を教えたってこと?」

「いや……教えたんじゃない。ぼくたちの旅行の予定なんか聞いたら、疑われるに決まってる。普通、なんの関係もない人にそんなこと教えないよ。

 あいつらの様子を見る限り、親戚の誰かと仲がいいって言うこともなさそうだ。とすると、

 ……ぼくたちの予定を知っている人が、あいつらと手を組んだんだ。そして、予定を教えて、誘拐をさせる」

いやだ。そんなこといやだ。信じたくない。

でも……

「誰か、裏切り者がいるんだ。それも、予定を手に入れることができる、ぼくたちに近い人が。ぼくたちを誘拐して、こんな目にあわせた誰かが」


 話し終わると、倉庫の中は静かになった。

とても、静かになった。

ハルは黙ったまま、なにも言わない。

さっきよりも、もっと元気をなくしたのが、わかる。

言わなきゃよかった。

 たとえハルに恨まれても、ずっとじぶんだけの秘密にしておけばよかった。

でも……

それは、できない。

それじゃ、お父さん達と一緒になっちゃう。

ぼくたちが知らないところで、勝手に物事が進んでくのなんか、ぜったいいやだ。

だから、それはいい。


 それよりも、ハルをなぐさめたい。

なんとか、ハルに元気になってほしい。

いつものハルの顔が見たい。


「ハル」

しおれているハルに、背中越しに声をかける。

「どんなことがあっても、ハルは逃がすから。何かあったら、ハルだけでも逃げて」

ハルを元気づけるつもりで言った言葉だったけど、ハルは首を横に振った。強く、強く。

「やだ!」大きな声で、ハルは叫んだ。

「ハル?」

「しゅーちゃんといっしょじゃなきゃ、やだ!」


 ハルは、目に涙をいっぱいためて、ぼくをにらんでいる。

本当に怒ったとき、ハルがいつもする顔。

「だってさ、もし私だけ逃げたとしたら、わたし、しゅーちゃん見捨てたことになっちゃうんだよ?そんなのやだよ。わたし、しゅーちゃんといっしょじゃなきゃ、絶対逃げないからね!」

わすれてた。ハルはこういうやつだった。

「逃げるときは一緒だよ」


「…ごめん、ハル」

「あやまんなくてもいいから、やくそくしてよ。絶対に、二人で逃げるって」

「やくそくする。やくそくするよ、ハル」

そういうと、ハルの顔がちょっとだけ明るくなった。


「じゃ、ゆびきり」

「ゆびきり?」

「約束なんでしょ?」

そういって、ハルの小指が伸びてきた。

背中合わせに、縛られたハルの小指になんとか指を絡める。

ゆびきりをして、小指を離す。

「うそついたら針千本だよ?」

そう言ったハルの顔に、さっきまでの、消えてしまいそうな感じはなかった。

いつもの、元気でおてんばで無鉄砲で考えなしのハルだった。

「ハル……」

「ん?」

「いっしょだよ。どんなときでも」


 絶対、逃げてやる。

あんな奴らに、一円だってやるもんか。

ハルと二人で、絶対逃げる。

そのために、今はゆっくり休んでおこう。

いざというとき、ハルと一緒に逃げられるように。

……ハルとこれからも、一緒にいられるように。






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