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だいぼうけん  作者: ロボ
7/24

第七話 誘拐

 ひんやりとしたコンクリートの床の感触で目が覚めた。

天井がずいぶんと高い。真夏の日差しも、ここまでは届かないようだ。

(冷たい?)

今は真夏なのに?

なんだ?

どうなったんだ?

あの時、変な奴らに襲われて……

あわてて体を起こそうとして、失敗する。


 (なんだ、これ?)

手が動かない。

何かで、縛られてる?

なんとかはずそうと、手首を前後に振り、ちからいっぱい引っ張ってみる。

けれど、よほどがっちりと縛ってあったらしくて、手首がこすれるばかりでちぎれない。

何度もやるうち、手首が痛くなってきた。

たぶんこすれて、血が出てるんだ。


 結局ほどくのをあきらめたぼくは、いまの状況を思い出してみた。

(そうか、さっきの……)

(……)

(ハルは?)

ぼんやりしていた頭が、一瞬で冴えた。

あたりを見回す。


 と、僕の後ろで、

「ううん……」と、小さな声。

「ハル、大丈夫?」

「しゅーちゃん?」

ぼんやりとしていた目に、少しずつ光が戻ってくる。

「よかった。とりあえず、無事……」

「しゅーちゃんっ!」

ハルが飛び上がって……くずれた。

手が縛ってあるから、うまく起きあがれなかったんだ。

「だ、だいじょうぶ?」

あわてて声をかける。

なんとかおきあがると、ハルはいきなりぼくに飛びついてきた。

「ハル?」

「よかった……無事だったんだ……」

それだけを、何度も何度も繰り返す。

「心配したんだよ、しゅーちゃん……」


 泣き続けるハルを、なぐさめてやりたかった。

けれど、手は縛られていて、いつもみたいに背中をなでてやることもできない。

だから、肩を貸した。

ハルの目の前に、肩を突き出す。

ハルはおとなしく、ぼくの肩に顔を預けて、なきじゃくった。

肩は冷たかったけど、伝わってくるハルの暖かさが、いまは誇らしかった。


 しばらくして遙が落ち着くと、ぼくたちはあらためてあたりを見回した。

「どこなんだろ、ここ……」

「なんかの倉庫みたいだね」

いくつもの棚が並んでいて、そこの間の床に、ぼくたちはころがされていた。

あたりには、荷物がうずたかく積まれている。

「今でも使ってるのかな、この倉庫」

「かもしれないね。クーラーも利いてるみたいだし。もしクーラーがなかったら、暑くていられないはずだよ」

真夏の光も、ここまでは届かない。窓のない倉庫の隅っこは、この時間でも薄暗くて。向こう側に何か得体の知れないものがいそうな、そんな感じがして、ぼくは身震いした。


 ふと、ハルの手元を見る。

縛られた両手。ぼくと同じでなんとかはずそうとしたんだろう、手首に真っ赤なあざができている。

縛っているのは、ビニールのひもだ。それで、何重にもぐるぐる巻きにされている。

力づくでは、はずせそうもない。

「これは、どうにもできないね」

ぼくの言葉に、ハルもうなずく。


「これ、追っ手の人たちじゃないよね」ハルが、ぽつりと言った。

「そうだろうね」

追っ手の人たちだったら、そもそもぼくたちを殴ったり、気を失わせたり、こんなところに閉じこめたりするはずがない。

「そうすると……」

さっきから、考えていたこと。もし口に出したらそれが本当のことになってしまいそうで、怖くて口に出せなかったこと。

「誘拐……?」

その言葉に、ハルが身をすくませる。

「そんな……」

「でも、他に考えられないよ。じゃなきゃ、どうして縛られてこんなところに転がされてるのさ」


 そのとき、外で足音が聞こえた。

びくっと体が震える。

乱暴にドアがを開けてあらわれたのは、さっきの男達だ。

「やっとお目覚めか」縛られたぼくたちを見て、にやにや笑っている。

ハルが、体をすくめる。

男達が手が出せないように、なんとかからだを動かして、ハルの前に動いていく。

「へえ……」

それに気づいて、金髪の男がさらに笑う。

「ナイトのつもりだぜ。ガキのくせしてよ」

「いったい、どうして……」男の言葉を無視して、聞いてみる。

「はっ」赤い髪の男が、馬鹿にしたように呟く。

「ずいぶん頭の悪いガキだな。誘拐されたに決まってるだろうが」


 誘拐……

一番信じたくなかった言葉。

「どうして、こんな……」

「どうしてか?そりゃ、目の前にこんな獲物がのこのこ歩いてたら、捕まえるに決まってるじゃねえか」

鼻ピアスの男がせせら笑った。

「ここはどこ?」

ぼくの質問に、彼らは歯をむき出して笑う。たぶん、まともに答える気はないらしい。

いや、そもそも質問に答える気もないのかもしれない。ただ僕らを痛めつけて、笑うためだけに来たんだろう。

「おうちにかえしてよ!」

ハルが叫ぶ。

「家出中じゃなかったのか?」

男の言葉に、ハルはぐっと詰まった。


 これは、他のことを聞いても笑われるだけで終わりそうだ。だから、一番大事なことだけ聞いてみた。

「これから、どうなるの?」

一番、聞きたかったこと。

「おまえらが、親に愛されてるかどうかだな」

いやな言い方だ。

「おまえらの親が金を払ってくれたら、きちんと解放してやる。それは心配するな」

リーダーらしい鼻にピアスをした男が言う。

「もし、お金を払ってもらえなかったら…」

おそるおそる、たずねる。


「そうだな、そのときは……」

男が、ナイフを取り出して、

「きゃーーっ!」

ハルの悲鳴が聞こえた。


男のナイフは、ハルの目の前一センチぐらいのところで、止められていた。

「何すんだ!」

自分の声が裏返っているのがわかる。

ハルはぎゅっと目をつぶって、ぶるぶると震えている。

それを見て、男は満足そうに笑った。

「生きて返せば、耳や指のひとつぐらいなくなっても、特に困ることはないからな」

そういって、ゆっくりとナイフをしまう。

「もちろん、要求通り金を払わなかったときは……」

そう言って、首をかっ切るまねをして、男はまた笑った。ぼくたちを痛めつけるための、笑いだった。


 けれど、ぼくはそんなことはどうでも良かった。

後ろで震えるハルが心配で。

震えているハルに、少しでも体をくっつけて。

少しでもハルのふるえが収まるように、それだけを考えていた。


 男達は、僕らの様子を見て満足したらしい。

「逃げようなんて気を起こすんじゃねえぞ」

それだけ言うと、男達は去っていった。

ドアの閉まる音が、大きく、大きく響いた。






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