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だいぼうけん  作者: ロボ
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第四話 夜行列車

「東碧水」と書かれた看板のすぐ下。

赤い大きなボストンバッグの上に、ハルがちょこんと腰を下ろしている。

「電車、まだかな……」

駅のホームには、ぼくとハル以外誰もいなかった。

「それにしても、どうして父さん達、いきなり『行くな』なんていったんだろ?」

さっきから、ずっと気になっていたこと。

「父さんもおじさんも、そんなことするひとじゃないよ。少なくても、ちゃんとした理由があれば説明するし、理由がなければ無茶なことは言わないと思う。一度は旅行を許してくれたしね。なのに、どうして……」

「わかんないよ」

あっさりと、ハルがいう。

「わかんないけど、おとーさん達が無茶いったのは本当だし。そんなに深く考えることないよ」

ハルのいうとおりかもしれない。

今ここでいくら考えたって、ぼくらにわかるわけないんだし。

「それよりさ……」

「東京って、どんなとこなんだろ?」

先回りしていってみる。

たちまちハルがふくれた。

「わたしのせりふとらないでよ」

「ハルのいうことなんかわかるよ。何年一緒にいると思ってるんだ?」

「いってることわかるからって、そんないじわるするんじゃもてないよ」

「あ、電車来た!」話をそらせる。

たちまちハルがそっちを向いた。

銀色にオレンジの線の入った電車が、するするとホームに入ってきた。


 ドアが開いたら走り出して、切符に書いてある席に座る。

あたりにはもう何人か座っている。

荷物はしっかりと足下に置いて、用意しておいたおやつを取り出す。

「なんだ坊主ら、二人で旅行か?」

前の席のおじさんが、突然振り返って聞いてきた。お酒でも飲んでいるのか、かなり顔が赤い。

「はい」ちょっと用心しながら答える。

「そうか、えらいなー。どこにいくんだい?」それには気づかないようで、おじさんは陽気な声で質問を続ける。

「ディズニーランドに行くの」 やっぱり少し用心しながら、ハルが答える。

気が付くと、あたりから何人か人が集まってきた。

「兄妹なの?」20歳ぐらいのきれいなお姉さんに聞かれる。

「ううん、いとこ」

「そういえば、名前は?」

「高月遙!」「高月周哉です」

そう言うと、二人の態度が少し変わった。

「……あの町の高月というと、ひょっとして高月電機とか高月精密工業とか……」

「おじいちゃんの会社です」

「じゃあ、お金持ちなんだ?」感心したように、お姉さんがいう。

「ううん、お父さん達は跡を継がせてもらえなかったから。そんなにあるわけじゃ……」

「……でもな。そういうことは、あんまりひとにいうもんじゃないぞ」

赤ら顔のおじさんが、とても真剣な顔で言った。

「どうして?」ハルが、不思議そうに尋ねた。

「もしそんなことがわかったら、どんなことがおこるかわからないからさ。自分の身分は隠しておいた方がいい。特に旅先では」

「そうなの?」

「今だって、その名前を聞いたとたんにこっちの態度が変わっただろう?いらないトラブルは、避けられるなら避けた方がいいよ」

「うん。わかった」

たぶん、このおじさんの言うとおりだろう。

おじいちゃんの会社に関して言えば、これまでそういったことがなかったわけじゃない。

ハルはあんまり気にしてないみたいだけど。


 それから、二人とずっと話をしていた。

おじさんは須崎と、お姉さんは東と名乗った。

須崎さんは東京の会社員で、出張の帰りに電車が無くなったからこの列車に。東さんは東京で大学に行っていて、旅行の時にはいつもこの列車に乗っているそうだ。

二人とも旅慣れているらしく、旅行でのちょっとしたこつや東京でいっておいた方がいいところをいろいろと教えてもらえた。


 話しこんで気が付くと、時計の針は11時をさしていた。

「もうこんな時間か。それじゃ、おいとましようか」

「あんまり夜更かししないようにね」

そう言って、二人は自分の席に戻っていった。


 二人が帰ると、とたんに静かになった。

窓の外からは、かたんかたんとレールの音だけが、規則正しく聞こえてくる。

ときたま知らない駅にとまって、何人かのお客を乗せて。

そしてまた、走り出す。

窓の外、町の灯りが流れては消える。

朝目が覚めれば知らない町だ。

「いてて!」

突然、ハルに耳を引っ張られた。

「なにすんだよ!」

「だってしゅーちゃん窓の外見てばっかりでつまんないもん!」

「外の景色ぐらい見たっていいじゃないか!」

「わたしみれないもん!」

「じゃ、かわる?」立ち上がって、遙に席を譲る。

「そうじゃなくって!」

ハルが叫んだ。

「おーい、どうしてそんなおこってるんだよ」

聞いてみても、ハルは顔をそむけたまま。

「…おーい、そんなすねるなよー」

こうなったら、ハルはてこでもうごかないから。

しかたがない。

「なんでもするから。そんな怒るなよ」

とりあえず下手に出てみる。

「じゃ、ゲームしよ!」

「ゲーム?」

「だって私たいくつだもん」

「…だから、怒ってたの?」

そういうと、遙はまたむくれた。

(たしかに、ハルを置き去りにしてたよな…)

ちょっと反省したぼくは外を見るのをあきらめて、ハルと遊ぶことにした。


「坊や達、二人で旅行かい?」

いつのまにか、車掌さんが検札に来ていた。

「あ、はい……」

「ちゃんと親御さんの許可は貰ってから来たの?」

体が固くなるのがわかった。

どうしよう。

もしここで、黙って出てきたことがばれたりしたら。

東京どころか、次の駅で連れ戻される。

そう思って、ハルの方を見る。

「大丈夫です。ちゃんと許可書もあります」

落ち着いた声で、ハルがいう。

「見せてもらえる?」

「はい」ハルが、ボストンバッグの中から許可書を取り出す。

(すごいな……)

そう思ったとき。

ハルが、ぼくの手を握ってきた。


 思わず振り払おうとして、気がつく。

(ハル、汗びっしょりだ……)

ここでびくびくして、もし車掌さんに怪しまれたら。

車掌さんがこの電話番号に電話でもしたら、旅行は一巻の終わりだ。

だから、ぼくが少しでも落ち着くように。

ハルが少しでも落ち着くように。

ハルの手を、ぎゅっと握り返す。


「はい結構です」

でも車掌さんは許可書を確認すると、満足そうにほほえんだ。

「いい旅を」

とだけいって、車掌さんは去っていった。


「ハル、もう車掌さんいっちゃったよ」

そう言って、手を離そうとする。でも、できなかった。

ハルがぼくの手をしっかりと握っていたから。

「もうちょっと、このままで……」

「……ん」

ハルがまだちょっとだけ震えているのが、伝わってきたから。

(ハル、がんばってくれたし)

「いまだけだぞー……」

そういって、手を握り返す。

顔、ちょっと赤い。

なんだかハルの顔がまともに見れなくて、顔をそむける。

そのままなんとなく気まずくなって、しばらく黙ったままでいた。

でも、さっきと違って、そんないやな気分じゃない。

(……なんだろ?)

考えてもわからないから、そのままにして、ずっとハルの手を握っていた。


 しばらくそのままでいるうちに、ぼくの肩にハルがもたれかかってきた。

「ハル、重いよ」

そういって、体を揺すぶる。

小さな小さな寝息が聞こえた。

「……ねちゃったの?」

……へんじがない。

「そういえば、ちょっとねむいかな……」

ぼくもハルにもたれかかる。

「それじゃ、おやすみ……」


 あたりから、くすくす笑う声が聞こえる。

どうして笑うのかわからなかったけど、起きられなかった。

ハルの肩にもたれかかって、ハルの手を握ったまま、ぼくはゆっくりと眠りに落ちていった。





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