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だいぼうけん  作者: ロボ
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第二十三話 手と手と手


「……ねえ、しゅーちゃん」


 黙ったままのみんなを見ながら、ハルがささやく。

「これからやることに、びっくりしたりしないでね」

「?」

「いい?」

「……うん」

なんだかわからなかったけど、とりあえずうなずく。


「だいじょうぶ。わたしにまかせて」

そういって、ハルが笑う。

いつもの、自信があるときの笑い方。

こっちもつられて、少しだけ笑う。



 目の前では、あいかわらず黙ったまま、おじいちゃんと仁科さんがにらみ合っている。

怖くなるくらいの静けさの中で、


「しゅーちゃん!」


ハルの叫び声が響きわたった。

みんなの視線が一斉に集まる。

そうして、ハルは。

思い切りぼくを抱きしめて。

今度はみんなの目の前で、もういちど。

あのおまじないをしてくれた。


 目の前には、ハルの恥ずかしそうな顔。

それはびっくりしたけれど、約束だったから。

なるべく平気な顔して、こっちもハルを抱きしめる。


 みんな、動かなかった。

おじいちゃんも仁科さんも東さんも、こっちをみて呆然としてる。

あっけにとられるみんなの前で、

「だいじなものなんでしょ?」

ちょっと赤くなった顔で、ハルが言う。

「ほしいものはほしいって言わないと、なくしちゃってもしらないよ」

ぴったりとぼくに体を寄せて、ハルは続けた。

「……わたしね、しゅーちゃんと誘拐されたときに、思ったの。

いまここでしゅーちゃんがいなくなったら。しゅーちゃんがけがしたり、どこか遠くに行っちゃったりして。

そんなの、絶対嫌だって。

わたし、しゅーちゃんはほしいもん。

どんなことしても、ぜったいに。

なくしたくないって、思ったの」

ぼくの体に回された手に、力が入る。


「おじいちゃんと仁科さんは、どうなの?

おじいちゃん、いなくなっちゃうかもしれないんだよ?」

ハルの言葉で、二人とも少しだけ、意地をはるのをやめたらしい。

にらみあうのをやめて、おちつかなげに目を伏せる。


 ……そっか。

だからハル、いきなりこんなことしたんだ。


 いきなりこんなことすれば、おじいちゃんと仁科さんは絶対びっくりする。

それはもう、ものすごく。

たぶん、今にらみ合ってることも忘れてしまうくらいに。


 ぼくたちが普通におじいちゃん達を説得しても、たぶん言うことなんか聞いてくれない。

こんな子供に言われなくたって、ほんとはどうすればいいのかくらい、二人ともわかってるだろうし。

 けど、おじいちゃんも仁科さんも、ぼくたちよりもずっと長く生きていて、そのぶんいろいろなものを背負ってる。

 そのために、動けない。

 だったら、ぼくらのやらなきゃいけないことは?

 決まってる。

どうすればいいのかなんて、大人のきちんとした意見じゃなくて。

「こども」としての、意見。おじいちゃんたちに見えていない、素直な気持ち。

それしか聞いてくれないのは、悔しいけれど。


 ……だから、二人が素直にぼくらの話をちゃんと聞いてくれるように、一度頭を真っ白にさせなくちゃいけなかったんだ。

おじいちゃんと仁科さんが、落ち着いて話し合いができるように。


 やっぱり、ハルにはかなわないや。

いつだって、正解を知ってる。


 少しだけ、間が空いて。

「おまえたちが聡い子だと言うことを忘れていたよ」

 ぽつり、と、おじいちゃんはつぶやく。

 この間病気で倒れていたときより、もっともっと小さく見えた。

「まさか、わしのことまで見抜くとはな……」

 さっきまでずっと黙っていた、質問の答え。

「……やっぱり、ほんとなんだ?」

ぼくの声に、おじいちゃんがうなずく。

「さすがにおまえ達に言うわけには行かなかったしな。もう少し時期を待つつもりだったんだが」

その「時期」っていうのは、たぶんおじいちゃんが死んだあとだったんだろうと、なんとなく思った。


「おじいちゃん、死んじゃやだよぉ……」

泣き出しそうなハルに、おじいちゃんは優しく言う。

「なに、そんなに悪い人生でもなかったさ。会社は成功したし、自慢の孫たちもいる。

孫が三人、ひ孫が一人。それだけできれば、十分だよ」

 どこか悟ってしまったような声。

聞くのが辛くなって、話題を変える。


「ひ孫って、駿くんだよね?東さんが、ぼくらのいとこ。ということは……駿くんとぼくたちって、なんになるのかな?」

ぼくの質問に、みんなで首をひねる。

「いとこの息子……って、なんていうんだろう?」

「いとこでいいよ。わかんないから」

あっさりとハルが言った。

「そんなことより、仁科さんはどうするの?」

「そうだよ。二人とも、いったい……」

仁科さんとおじいちゃんがゆっくりと目を合わせる。


「……しかし、いいのか?わしは、おまえたちにあんなことを……」

辛そうなおじいちゃんに、ハルが厳しい声で言う。

「よくないよ。しゅーちゃんやわたしに、あんなことするなんて。みんなにも、あれだけ迷惑かけてさ。絶対に、許せないよ」

その言葉に、おじいちゃんがうつむく。


 それをみてから、まだ怒った顔のままで、ハルは続けた。

「……でも、しゅーちゃん休ませてあげたいし。ちゃんと、『逃げない』って約束してくれるなら。一日二日だったら、待ってあげないこともないよ」

おじいちゃんが、目を一瞬丸くして。

それから、大きな声で笑い出した。

『逃げない』というのが、ぼくらのことからだけじゃないことに、たぶん気がついたから。


 笑っているおじいちゃんを横目で見ながら、ぼくは仁科さんに向かって、話しかける。

「おばあちゃん……ぼくらのおばあちゃんですけど、おじいちゃんとはほんとに仲が良かったです。おじいちゃんも、おばあちゃんが亡くなってから、すっごく落ち込んで。会社も辞めちゃって、ずっと一人だったんです。

……でも、仁科さんの写真は、ずっと大切に持ってました」

ハルがとなりで、大きくうなずく。

「けれど、長い間ずっと連絡しなかった。ぼくらのおばあちゃんに、遠慮してたんだと思います。それなのに、今になって仁科さんと連絡を取ったんです。

……忘れられなかったんだと、思います。

ぼくらが言うことじゃないと思うんですけど。

……だから……」

「気にしなくても、いいと思います。おばあちゃんのことは」

ハルが続きを言ってくれた。


 黙ったままの仁科さんに、みんなの視線が集まる。

ぼくも、ハルも、おじいちゃんも東さんも。

じっと、仁科さんを見つめる。

しばらくしてから。

仁科さんも、小さく、こっくりとうなずいて。

おじいちゃんに歩み寄って。

ゆっくりと、抱き合った。


 くっついたままのハルのからだから、力が抜けていくのがわかった。

たぶん、ぼくのからだからも。

……よかった。これで、たぶんみんなうまくいく。


 東さんが、明るい声で言った。

「ほらほら、ここからは大人の時間。

おじいちゃんとおばあちゃんも、さっきのしゅーくんとハルちゃんみたいなこと、したいんだって」

『『はーい!!』』声をそろえて、わざと思いっきり元気に答える。

仁科さんとおじいちゃんは、そろって顔を赤らめて、うつむいた。


 東さんについて、部屋を出ていく途中で。

まだ聞きたいことがあるのに、気がついた。

「仁科さん……」

いいかけて、途中で言葉をかえる。

「……おばあちゃん」

仁科さんが、目を丸くした。


「これから、おじいちゃんとおばあちゃんがどうなるか、わかんないですけど。

……もし、おばあちゃんがおじいちゃんと仲直りできなくても、

駿君のところに遊びに行っても、いいですか?」

 おばあちゃんが、何か答えるより早く。


「ねーたん」

 駿君の声がした。

 東さんの胸元に抱きかかえられて。

 はしゃぎながら、ゆっくりとぼくらに手を伸ばす。


 ぼくとハルは、顔を見合わせて。

 それからそっと手をつないで、

その手で、駿君の小さな手をしっかりと握りしめた。

 もう一人の「いとこ」の手を。



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