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だいぼうけん  作者: ロボ
19/24

第十九話 訳

 着替えてごはんを食べてから、ぼくたちは仁科さんに今まであったことを話した。

仁科さんは、最後までしっかりと、ぼくたちの話を聞いてくれた。


「……それで、私に聞きたいことって?」

仁科さんが、ゆっくりと口を開く。

「そのまえに、ぼくがどうしても不思議だったこと。それから、話します。あとでつながってきますから」

ぼくの言葉に、うなずく仁科さん。


「最初から、不思議だったんです」

一度深呼吸してから、ぼくは話し出す。

「どうして、ぼくたちが手紙を持っていくことになったんでしょう?」

東さんの家で、考えたこと。

「もっと信用できる大人じゃなくて、わざわざぼくたちが手紙を持っていかなきゃならない理由。おじいちゃんが、そこまでして手紙を届けようと必死になる理由。おかしなことばっかりです」

どうして。どうして。どうして。

たくさんの疑問。

「でも、それより、一番不思議だったことは…」

「ほんとだったら、こんな事件、ぼくとハルだけでなんとかなるはずないんです」


 ぼくのことばに、仁科さんが目を見開く。

「あいつらの計画にあちこち穴があったから。ぼくたちがピンチになるたびに、どこからか救いの手があったから。だから、ぼくらはいまここにいるんです」

ちらっと、ハルの顔を見る。ハルが、小さくうなずく。

「でも、どうしてそんなに都合よく、みんな助けてくれたんでしょう?」


「おじいさんが手を回して助けてくれたんじゃないの?」と、仁科さん。

「だとしたら、さいしょからぼくたちをあぶないめにあわせないようにしますよ。全部、仕組まれてたんです。ぼくらを誘拐して、『危ない目にあわせてからたすけだす』こと。この計画をたてたおじいちゃんには、それは絶対に必要だったんです」

「……どうして?」

「……こんどの事件で、いちばんあやしいうごきをしたの、誰だったと思います?」

テレビで見た名探偵みたいに、なるべくもったいつけてしゃべってみる。

「……わからないわ」

「じゃ、質問を変えます。あやしいひとが電車の中でついてきたとき。誘拐犯から逃げ出したとき。助けてくれたの、だれだったでしょう?」


「……東さん、だよね」

それまでだまっていたハルが、口を開く。

「うん。でも、どうして東さんだったんだろう?」

「?」

「一回目は、別に問題ないです。でも、二回目。町で助けてくれたのも東さんだったのは、どうしてなんでしょう?」


「列車で助けてくれたひとと町で助けてくれたひとがおなじひとでなきゃいけない理由なんか、ないです。

そんなことをしても、ぼくらが不自然に思うだけですよ、いまみたいにね。

おじいちゃんが、『ぼくらに知られないように』ぼくらを裏から見守っているのなら、二回目…誘拐されたときに助けてくれるのは別の人じゃなきゃだめなんです」

「おじいさんが、あなたたちに、わざと自分が関わっていることをばらそうとしたってこと?」

「いいえ。だったら、最初から隠そうとしません。

何か、理由があったんです。『東さんが』ぼくらを助けなければならなかった理由が」


 すっかりぬるくなってしまった麦茶を、一気にのみほす。

「それに、誘拐犯から助け出すんですから、強そうな男の人のほうがよかったとおもうんです。なにがあるかわかりませんから。

でも、助けてくれたのは東さん。別に強くもないし、ふつうの女の人。

そのあとのことだって、変ですよ。

あんなことがあったら、ふつうはすぐに警察に届けると思うんです。だって、ふつうのひとの手におえないじゃないですか、誘拐事件なんて。

なのにうちに連れて行ってくれて、駿くんにまで会わせてくれて。

なんにもこわがってないんです。

面倒なことになんかなるはずがない。それがわかってないと、あんなことはしないと思いますよ」

一度言葉を切って、続ける。

「たぶん、知ってたと思います、東さん。この計画のこと。おじいちゃんに頼まれたんだとおもいます」


「……どうして、そんなことを?」

「会わせたかったんですよ、東さんと駿くんに、ぼくたちを」


仁科さんは今度こそ、途方に暮れた顔をした。「どうして」と、顔に書いてある。

「ぼくらも、わかんなかったんです。東さんの家で、あの写真見るまでは」

仁科さんの顔が、はっきりとこわばった。


「古い工場の前で、おじいちゃんと仲間達が並んで笑ってる、セピア色の古い写真。

 あの写真、どこかで見たことがある、と思ったんです。どこで見たのか、それを思い出したときに、全部つながりました。

……あの写真、おじいちゃんの家にあったのと、同じだったんですね」


「おじいちゃん、あの写真毎日見てました。とくに最近、元気がなくなってから。寂しそうな顔して、いつもいつも。

たぶんあの写真に写ってるひと、すごくたいせつなひとだったんだとおもいますよ」

少しだけ、かおをそらす仁科さん。

「でも、その写真が、なんで東さんのところにもあるんでしょう?」


「あの写真に写ってるひとは、どうみても東さんじゃありません。それなのに飾ってあるということは、東さんにとってあの写真はとても大事なものなんです。

東さんにとって、とても大事なひとが写ってるんですよ。たぶん」


「おじいちゃんにも、東さんにも、おなじように大切なひと。

だとしたら、東さんとおじいちゃんの間には、なにか関係があるんじゃないか、そうおもったんです。

で、そう思って写真を見ると、いくつか気がついたことがあって。

あの場所で、隣にいた女のひと。

ほかの人は会社の人で、全員男の人。

たった一人、見たことのない人。

おじいちゃんと仲がよくて、でもぼくが見たことがない人。


おじいちゃんが必死になるなら、東さんとつながりがあるなら、たぶんこのひとだ、と思ったんです。

あとは、そのひとと仁科さんを結びつけるのは、簡単でした」


「おじいさんが私のところに直接手紙を送ってこない理由には、ならないわよ?」落ち着いた声で、仁科さん。

「たぶんなにか理由があったんです。

確かに、手紙を渡すだけだったら、おじいちゃん本人がいけばいい。あれだけ必死になるくらいなんですから。

それなのに他の人に頼んで渡してもらうということは、おじいちゃんが渡せない理由があるんだろうと。

ひょっとして、仁科さん断ったんじゃないですか?

手紙を受け取るの。

だからぼくらにたのんだ。

相手がこどもなら、何もきかずにおいかえすようなことはしないだろうと、おじいちゃんおもったんじゃないでしょうか?

「そこまでするのは、どうしてだとおもう?」

仁科さんは、穏やかに言った。

「もう、わかってるんでしょう?」


「はい。だからあのときああ呼んだんです、おばあちゃん、と。

東さんのおばあちゃん。駿くんのひいおばあちゃん。

……おじいちゃんの、最初の奥さん。

血はつながっているかまではわからないけど、ぼくたちの、もうひとりのおばあちゃん」


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