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宇宙戦争・最終決戦

掲載日:2026/09/01

 

 ――西暦20××年――

異星人の侵略が始まって三年。人類は敗北を重ね、残された戦力を日本に築いた第七防衛線へ集めた。

防衛線の後方地下基地では、敵の超巨大母艦を一撃で粉砕可能な最終決戦兵器『滅星砲《めっせいほう》』が、完成間近となっていた。

第七防衛線を守りきれるか否かで、人類の命運は決定するのだ――。



塹壕の底は、真夏の太陽に照らされていた。

焼けた金属と乾いた土の匂いが混じり合い、喉の奥がざらつく。

遥か大気圏外から、音もなく地表を見下ろす侵略者の超巨大母艦が、満月に似た輝きを放っている。

 

一等兵の山田太郎《やまだたろう》は、土嚢《どのう》の陰にレールガンを置き背中を丸めた。

軍靴は擦り切れ、頬には乾いた血が張りつきひび割れる。

彼は左右を確認したのち、胸ポケットから汗で湿った一枚の写真を取り出した。

 

そこには、淡い桃色の突起が写っていた。禁断の曲線を描く丸いふくらみ。

他に例えることのできない、柔らかい感触。それを想い出すだけで、指が疼き、喉が鳴る。


「うひひひひ」


太郎はその匂いを嗅ぎ、頬をこすりつける行為を想像し、よだれを垂らしてにやけた。

こんな戦場で見るべき写真ではない。だが、だからこそいっそうそそられるのだ。


「バカを言うな、曹長!」 

「そちらこそですぞ、少尉!」

 

怒鳴り声が塹壕内に響き、太郎の耳に届く。

慌てて写真をしまい、振り向いた。


壕の反対側で、少尉の川瀬怜子《かわせれいこ》と曹長の岩渕源三《いわぶちげんぞう》が対峙していた。

怜子は丸眼鏡の奥で三白眼を光らせ、岩渕は無精ひげの四角い顎を突き出している。

二人の間には、作戦会議で意見が割れた時より鋭い空気があった。


「貴方は何もわかっていない!」

怜子が言った。

「前へ出る力! 傷を受けても走る意志! 特に、むき出しで冬の寒さに耐える姿! そこに人類の尊厳があります」


「わかっていないのは少尉殿ですぞ!」

岩瀬が低く吠える。

「後方からだけ見える陰影! やや八の字型に並んだくぼみ! そこに魂が宿るのです!」

 

太郎は凍りついた。

(おいおい! まさか、上官二人が作戦方針をめぐって決裂しているのか!?)


滅星砲の存在が異星人に知られたという情報もある。

それが本当なら、敵は総戦力を持って、決戦を挑んでくるはずだ。

いがみ合っている場合ではない。


「曹長! 上官に対して口ごたえするつもり!?」

「上官に正しい諫言をするのも部下の務めです!」


興奮する二人は睨みあい、今にも掴み合いの喧嘩になりそうだった。


(仕方がないか……あまり気乗りはしないが……)

太郎は二人の間に割って入った。

「止めてください、二人とも! もめている場合ではないでしょう!」


 少尉の三白眼が太郎をにらむ。

「ちょうどいい、第三者である山田の視点から意見を聞きましょう! よいですね、曹長?」

「いいでしょう! おい山田! 少尉と俺のどちらが正しいか、質問に答えろ!」

「は、はい」

 

(正直、戦術論を問われても困るんだが……)


川瀬玲子が言った。


「小学生男子の膝小僧《ひざこぞう》!」


岩渕源三が言った。


「女子高生の膝裏《ひざうら》!」


二人がハモった。


「「この世で最も尊いのは、どっちか答えろ!!」」


(え!? なにそれ!?)


「答えは言わなくてもわかるわ! 小学生男子の膝小僧に決まっているもの!」

怜子は断言した。

「特に、ちょっぴり赤みが挿した膝小僧に、チョンと貼られたバンソウコウ姿が至高!」


「いいや、女子高生の膝裏だ!」

岩渕も譲らない。

「制服の裾と靴下のあいだに見える健康美! 足を内股気味に開いた姿で、窓辺から外を眺める様子は永遠の宝!」


(キノコ、タケノコ論争かよっ!)

太郎は上官に心の中で突っ込みを入れる。


「はぁ~~っ、そんなことで言い争っていたんですか……」

「そんなこととは何ですか! 山田一等兵!」「そうだ! 真面目に答えろ、山田!」

「自分はもっと尊いものを知っています」

「もっと尊いものですって!?」「バカな! あるわけがない!」


「これです!」


太郎はポケットから写真を取り出し、上官二人に見せた。

 

「「こ、これは!?」」


その写真には、薄桃色の小さな島々が、柔らかな毛の海に浮ぶ姿が写っていた。

四つの丸い花弁と中央の蕾が、極限の可愛らしさをたたえている。


「「ね、猫の肉球!!!」」


「どうです、この尊さに叶うものなどありません!

しかも、直接触ってプニプニしたり、クンカクンカしたりできるんですよ!

小学生男子の膝小僧や、女子高生の膝裏はノータッチが鉄則! プニプニやクンカクンカしたら逮捕されますからね!」

白い歯を見せ勝ち誇る太郎。


「ど、動物は卑怯でしょう!」「そーだ! 動物はノーカンだ、ノーカン!」


悔し紛れに上官たちは唾を飛ばして反論する。

「だいいち、猫なんてもう誰も飼う余裕なんてないでしょう!」「全くその通りだ! 瓦礫の町には野良猫さえいないぞ!」

太郎も負けじと言い返した。

「言わせてもらいますが、今の小学生男子の足は痩せこけて、包帯と泥にまみれている少年ばっかりだ! それと、女子高生が着るのは支給品の迷彩ズボンだけで、膝裏なんて見えませんよ!」


「「「………………………………」」」


太郎も、少尉も、曹長も押し黙った。


しばらくの沈黙の後、少尉が呟く。

「そうね、そうだったわね……」


曹長が続いた。

「俺たちは失い続けてきたんだな……」


最後は太郎だ。

「まだ取り戻せるチャンスはありますよ!」


「そうね、守りきって、何がいちばん尊いかの決着を付けなきゃね!」


「ああ、すべてを取り戻そう!」


その時、無線が鳴った。

『第七防衛線へ。敵ドローン群、全方位より接近中。数、測定不能。繰り返す、数、測定不能。全部隊戦闘態勢。すべて迎撃せよ。人類の命運はこの一戦にあり、各人の奮闘をいのる』



少尉はタブレットからAIによる支援攻撃を指示し、曹長は塹壕陣地に檄を飛ばす。

太郎は即座に配置につき、レールガンの安全装置を外した。

塹壕の向こうで、空が黒く染まっていた。視界いっぱいに広がる無数の点が、蝗害《バッタ》の群れのように迫ってくる。

太郎は写真に短く祈りを捧げると、黒い空へ向かって引き金を引き続けた。

その指に冷たい金属ではなく、温かいプニプニが触れる未来を信じて――。



―― END ――


「異世界転移」モノの長編も投稿しています。

設定にSF的要素を入れた、笑える冒険コメディです。

『草太くんのBIG(ビッグ)り異世界冒険記』

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