第一話
今日も私はクタクタだった
何度、魔法を発動しただろうか
司令官の「先鋒、放出ー」を合図に、最前列にいる先鋒と呼ばれいる魔導士達が魔法を発動する。
私がいる国は、戦争の真っ只中だ。相手国との力が拮抗していて、なかなか終焉の目処が立たないらしい。来る日も来る日も駆り出されては、攻撃魔法を数え切れないほど発動させられている。
休みなどない、暗くなってお互いが認識できなくなったところでその日が終わる。
そして、翌朝に日の出とともに攻撃が開始になる。
暗くなって宿舎もしくは野営地に帰り、食事をとれそうなら食べて寝るだけ、疲労がピークをむかえていた。
私は公爵の落胤で、母親は公爵家のメイドだったらしい。
母親は、儚い人だった
例えば、いつも元気で周囲を明るくしてくれる太陽の様な人がいれば、母のように穏やかな日陰のような人もいる。
人は、太陽の下にばかりおられない、時には日陰で休みたい。おそらく、それが私の母親だったのだろう。
私と母親は、公爵が用意してくれた小さな家に二人で住んでいた。
貴族街の外れにあって、どちらかと言うと平民との距離が近い場所にあった。
小さい頃は母親が一番好きだったが、外で遊ぶようになると外の世界が楽しくなった。
平民の子供達と朝から晩まで遊んでいた。年齢もバラバラ、男女関係なし、その時々で楽しめる遊びを一緒に楽しめる者と遊ぶのだ。
家に帰ると夕食が待っている
母親は貴族だったのだろう、礼儀作法はキッチリとしていた。私にも貴族の礼儀作法を教えてくれた。
リビングや寝室に父親である公爵の自画像が飾ってあった。母は来ることもない父親の自画像に、一日に何度も挨拶をして話しかけていた。
そんな母親が、私が10歳の時に亡くなった。
どこで聞いたのか?監視でもつけていたのか?亡くなった日に父親の命令で私を訪ねて来た人がいた。
母親は、近くの教会で簡単な葬儀が行われて平民の共同墓地にお墓が建てられ埋葬された。
私はその日に公爵家に連れて行かれた。
初めて会う父親は、自画像では分からなかったが、驚くほど私と同じ顔をしていた。
公爵家には父親の他に公爵夫人、長男、次男、長女がいた。
父親 ディーノ・ヴィスコンティ 42歳
公爵夫人、テレーザ・ヴィスコンティ 38歳
長男、ユベール・ヴィスコンティ 19歳
次男、ルキノ・ヴィスコンティ 15歳
長女 セラフィナ・ヴィスコンティ 17歳
父親は公爵家の人達に私を紹介した。「この子は私の子供だ、名前はベアトリーチェ、年は10歳、母親が亡くなったので別邸で育てることにした。」「何か質問があるかね?」
誰も何も言わなかった。私も黙っていた。
父親がメイドを呼んで何か指示をした。私はそのメイドに連れられて父親が言っていた別邸に案内された。
別邸は公爵家の敷地内に建てられているが、本宅からは離れていた。
別邸に到着すると案内してくれたメイドとは別に黒のスーツを着た男性が来た。
男性は執事見習いで名前はアントニオ メイドはフィーナと名乗った。
私はベアトリーチェ10歳ですと母親に習ったカーテンシーをした。
執事見習いのアントニオが、「ベアトリーチェ様、我々にカーテンシーはなさらないで下さい。」と言われた。目上の方々だし、私の立場は微妙なのでと返事を返した。
アントニオが失礼ですがお嬢様で間違いないですか?と聞いてきた。
私は髪も短いし、日に焼けていて色黒になっている。顔も父親の公爵に似ている男顔で、痩せているのもあって男の子に見えるようだ。元居たところでも、一緒に遊んでいた友達も私を男だと思っていた子が多かった。
私は、「男の子に見えますよね?此処にいるなら髪の毛を伸ばした方がいいですか?」と聞いた。
アントニオは、「女性は髪を長くしておられますね。お嬢様も伸ばされてみられてはどうでしょうか。」と返事があった。そして「メイドはフィーナが一人付きます。フィーナが休みの時は本宅から別のメイドが来ます。」と説明された。
私は、「これまでは母と二人で生活していましたから家事はできます。自分のことは自分で出来ると思います。申し訳ないですが、食材などを準備していただけないでしょうか?私にメイドさんをつけてもらうとか、申し訳ないです。」と言った。
アントニオは、公爵閣下のご指示です。今後は学院にも通っていただきます。準備などは私がいたしますが、別に必要な物があれば教えて下さい。準備いたします。と父親からの命令なので従うようにと説明の言葉の中に含まれていた。
これから私の生活はこの別邸でしていくようだ。メイドのフィーナには申し訳ない気がした。できるだけ迷惑をかけないようにしよう、そう心の中で思った。
食事は本宅から運ばれてくる。衣食住は面倒をみてくれるようだ。
学院にも通わせてくれると言っていた。元居たところでは、教会に併設されている学校に通っていた。通っているのは下位貴族や商人の子供達だった。私の立場が微妙なのだと、そこで学んだ。
学校は、生徒は生徒という立場。親の立場がなんであれ、一生徒なので全てにおいて平等であるという謳い文句はあった。実際は、なんだかんだ貴族の子供が優先だった。
不思議なもので、子供同士で身分の話というより、親が話しているのを聞いて侮ってもいいと思った子供に対して意地悪をする。私について誰かが貴族の親から聞いたのであろう、貴方は妾の子供なんですってね。学校に通えるなんて良い御身分なのかしら。と服やかばんや靴を汚されたり、ノートや教科書を取られたり落書きされたりと小さな意地悪をされた。
私は学ぶことが好きだったので、成績もよかった。先生からも褒められることが多かったので、そこも標的になる要因だったと思う。
学校でいじめにあっていると話すと母親が泣くので黙っていた。教科書などはなくなれば先生が貸してくれたし、ノートはなくても覚えれば良いだけだった。汚れものは毎日母親に謝った。
母親は私が公爵に似ていることが嬉しかったようだ。何かにつけては「ベアトリーチェはお父様に似ているわ。可愛いし頭もいいし自慢の娘よ。髪の毛は伸ばしてほしいけれど、お父様に似ているからベアトリーチェが気に入っているのならそのままでもいいわ。」といって父親と関連付けるのが好きだった。
学院でも同じようにいじめにあうのだろうか?同じようないじめなら我慢できそうだが、身体に傷をつけられるのは困るな、あと衣服を汚されるのも困るかなと思っていた。
翌日は学院にアントニオとフィーナが付き添ってくれた。手続きなどは終わっているのだろ、真新しい制服を着せられた。10歳ということだが、学力を知りたいということで、試験を受けされられた。
試験問題は難しくなかった。学校でも学力がある者は、その学力に合った勉強を教えてもらっていたからだ。それでも自分がどのくらいの学力があるかわからなかったので知ることができるなら、嬉しかった。できなければ学べばいいし、できているなら更に上を目指すことができる。
今日は試験だけ受けて別邸に帰るようだ。
今までは、朝から昼過ぎまで学校にいて、そこからは外で遊ぶのが日課だった。ここでは何をしたらいいのか分からなかったので、フィーナに尋ねた。フィーナは、貴族のご令嬢は勉強をしたり読書をしたり刺繡をすることが多いようですよと教えてくれた。本を読むことは好きだ。教会にある寄付で集まった本をたくさん読んだ。ここでも本が読めるのか聞いた。別邸にもいくつか本があるが、私に合った本をアントニオに準備してもらうとフィーナが言うのでお願いした。
明日から本格的に通学するようになれば課題などもあるらしいので、帰宅したら勉強することになるようだ。学院では図書館もあるので、本は借りることもできるとフィーナが教えてくれた。
10歳の私はこれから巻き込まれる政治の世界のことなど知る由もなく、学院とはどんなところだろうと不安と期待とで少し高揚した気持ちでいた。




