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バルコニーの約束

掲載日:2026/02/18

初投稿です。

「どちらに行かれるのですか?」


夜風に木々が揺れる。

僕は完璧なタイミングだったと思いながらも、なぜかどこかで彼女はきっと僕を見つけるだろうとも感じていた。


「夜風に当たってただけだよ」


「…お酒でも嗜まれたのですか?お水をお持ちしましょう」


「いや、大丈夫。少し考え事をしたかったんだ」


暗に一人にしてもらいたいことを伝える。

時間がないことを悟られてはいけない。普段どおり振る舞えているだろうか。

バルコニーに置いた右手で合図を出す。


「何か悩み事でしたら、私でよろしければお聞きいたします」


「君は…君は優しいね」


そうか、彼女は気づいているのか。

彼女は僕がここで何をしているかを問うのではなく、どこへ行くのかを問うた。

ここはバルコニーなのに。

室内の明かりが逆光になって彼女の表情ははっきりとは見えない。

だけど、きっと彼女はいつもの意志の強い目で僕を見ているのだろう。

どこで漏れたのだろう。後でしっかり締め直さなければ。


「戻らなくて大丈夫?メイド長に怒られるんじゃない?」


「アウリス様のご様子を確認することも私の務めでございます」


「僕は大丈夫だよ。安心して戻っていいよ。どこにも行かない」


「…私では不足でしょうか」


不足であるはずがない。彼女がそばにいることがどれだけ僕の力になるかを一番分かってるのは、僕だ。

だけど、彼女を巻き込むわけにはいかない。


「考え事ぐらい誰にでもあるよ。君が不足とか、そういうことじゃない」


「また置いていくの?」


「…どこにも行かないよ」


「私も連れて行って」


「どこにも行かないし、君は知らない」


近づいてくる彼女の表情は、与えられた仕事を全うするメイドの顔から幼馴染の顔に戻っていた。

知らない方がいい。知ってしまうと秘密を持ってしまう。こんな秘密は持っていても苦しいだけだ。

彼女の手を引いてここから飛び出したくなる気持ちを必死でおさえる。

それが、彼女にとっても、この国が立ち直るためにも、最善のはずだ。

そろそろ時間だ。下も痺れを切らし始めているだろう。


「いいかい、君は知らない、君は何も見ていない。もし誰かに咎められたら、気のせいだったと伝えればいい」


「私も行く」


彼女は僕の袖を掴んで、僕を引き留めようとする。

下から見上げるその眼でわがままを言われると、僕はいつも彼女に譲ってあげていた気がする。

きつく握られた袖のシワを、彼女が伸ばしてくれるのはいつになるのだろう。

僕はバルコニーに置いた右手を離して、彼女の指を解く。


「君は何も知らなくていい。だけど、約束する。必ずまた会いに来る」


「私も行くの」


その頑固な君が、僕は好きなんだ。


「必ず迎えに来る」


うまく笑えただろうか。

彼女から離した手を高く掲げ仲間に合図を出し、僕は最後まで彼女の怒ったような視線を受け止めながら、手すりを越えて闇と仲間たちに背中を預けた。


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