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侵略者

作者: あやお
掲載日:2026/02/10


 僕は、お風呂に入るのが大好きだ。

 なんでかって?特別に教えてあげる。


 目を閉じて、思い切り息を吸い込んでから、お風呂に顔を思い切りつける。

 それから、10数えて目を開くんだ。

 そうすると、そこにはだだっ広い雲が広がっているんだ。お風呂の中なのに、不思議でしょう?

 ただ、動かせるのは腕から先だけ。ここだけマイナスポイント。

 

 話が逸れたね。

 それでね、まずは雲を、腕で掻き分けて、穴を開けるんだ。そこから下を覗き込む。

 ずーっと下の方に、沢山の建物が見えるんだ。

 高いオフィスビルみたいなものに、スカイツリーみたいな細長い塔みたいなもの。

 もっと下には、沢山民家みたいなのが連なってる。

 でもね、なんだか少し近未来的な見た目をしてるんだ。どれもツルツルテカテカしてて、キラキラ光っている。

 よーくみると、頭に触角の生えた、二頭身の宇宙人みたいなのがたーくさんいるんだ。


 

 まるで、どこかの星を空から眺めてるみたい。

 まさに、神視点てやつ?


 宇宙人は僕がいるのに気がつくと、急いで家の中に隠れちゃうんだ。

 それもしょうがないことなんだよね。

 ここにいる時の僕って、本当に大きいんだ。

 どれぐらいって、街がミニチュアに見えるぐらい。

 ちょっと腕を振り下ろしたら、ビルは粉々に砕けきっちゃうし、横に振り切れば、地ならししたみたいに、家も宇宙人も吹っ飛んじゃう。

 よーく聞かないと聞こえないけど、何か宇宙語でずっと叫んでるみたい。

 でも僕は気にしない。毎日面白くもない学校に通って、ストレスってやつが溜まるわけ。

 そんな僕をかわいそうに思った神様からのプレゼントなんだよ。そうに決まってる。

 だから、僕は今日もこの街を壊しちゃうんだ!

 がおー。

 


 あー今日も面白かった。

 じゃあ、そろそろお風呂から出ようかな。あんまり長いとお母さんに怒られちゃう。

 ん?なぁに、なんかこっちに向かって宇宙語で話しかけてきてるみたい?いつもより大きな声。

 何言ってるかわかんないし、もういいって。

 僕は話しかけてる宇宙人を手で掴んで、握り潰す。

 ぶちゅっと音が出て、手から緑色の液体が滲み出る。

 うえっ汚いなぁ。虫みたい。


 僕はお風呂から顔をあげてから、自分の手のひらを確認する。緑の液体がこびりついて、洗っても取れない。

 何度も擦って、少し薄くなったところで諦めた。

 手のひらがヒリヒリする。

 ちょっとやりすぎたかも。手のひらに残る感覚が、なんだか気持ち悪いや。



 それから数日経って、久々にお風呂に顔をつけてみた。

 なんか、ちょっと気持ち悪かったから我慢してたんだよね。でも、あれ?なんだか宇宙人がいないや。

 こないだ全員ころしちゃったっけ?

 うーん、わかんない。でも、この街も、もう大体壊れちゃったし、飽きちゃったなぁ。



 それから更に数日経った日。

 朝起きると、お母さんが珍しくニュースをみていた。

 お父さんは毎日みてるけど、お母さんは大体、忙しい忙しいって動き回ってるのに、何かあったのかな。

 僕が椅子に座ると、お母さんがトーストを置いてくれた。

 僕が苺ジャムを塗りたくって、食べてると、ニュースキャスターの人の声が聞こえてきた。


 『宇宙人は、この星の住人に、街を壊滅された。その復讐として、侵略しにきたと主張しています』


「宇宙人なんて、本当なのかしらねぇ」


 お母さんがそう言いながら、牛乳をコップに注いでくれる。僕はそれを受け取って、一気に飲み干す。


「まぁ、でも動画まで公開されてるしなぁ。ほら、これ」


 お父さんの声で、テレビをみる。

 僕は、目をまんまるくしてたと思う。

 だって、テレビに映ったのは、僕がよく遊んでた宇宙人達だったから。

 

 『もし、この大量殺戮犯を差し出した場合は、侵略を中止する、そう宇宙人達は主張しており――』


 パッとテレビ画面が変わる。

 そこには、雲の中から伸ばされた大きな腕と、奥の方に目だけが薄ら映っていた。

 もう口には何にも入ってないのに、唾をごくりと飲み込む。


「これ、人間なのか?でかくないか」


 父さんの言葉に、僕は安心する。

 これなら、僕だってわからないよね。ああ、よかった。

 

 また、急にテレビの画面が変わる。

 

 『宇宙人は、無差別に攻撃を開始しています! 皆さん自らの命を守って……』


 そう話していたはずの、ニュースキャスターの人の頭が、眩しい光線を浴びて、ぶっ飛ぶ。

 テレビからは叫び声や、爆発音がして、何も映らなくなった。


 僕は、だんだん怖くなってきた。

 おもわず、お父さんの手を握ると、お父さんが優しい顔で握り返してくれた。


 外から、叫び声とか激しい音が、たくさん聞こえてくる。


 お母さんがヒステリックに、「犯人、早く投降しなさいよ!」と叫ぶ。

 

 僕は俯いて、黙っている。

 違う、あれはただのゲームだったんだ。

 そう、こんなつもりじゃなかったんだ。


 窓の外では、大きな光が迫っている。

 僕はただただ、自分の握りしめた拳を見つめ続けた。


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