侵略者
僕は、お風呂に入るのが大好きだ。
なんでかって?特別に教えてあげる。
目を閉じて、思い切り息を吸い込んでから、お風呂に顔を思い切りつける。
それから、10数えて目を開くんだ。
そうすると、そこにはだだっ広い雲が広がっているんだ。お風呂の中なのに、不思議でしょう?
ただ、動かせるのは腕から先だけ。ここだけマイナスポイント。
話が逸れたね。
それでね、まずは雲を、腕で掻き分けて、穴を開けるんだ。そこから下を覗き込む。
ずーっと下の方に、沢山の建物が見えるんだ。
高いオフィスビルみたいなものに、スカイツリーみたいな細長い塔みたいなもの。
もっと下には、沢山民家みたいなのが連なってる。
でもね、なんだか少し近未来的な見た目をしてるんだ。どれもツルツルテカテカしてて、キラキラ光っている。
よーくみると、頭に触角の生えた、二頭身の宇宙人みたいなのがたーくさんいるんだ。
まるで、どこかの星を空から眺めてるみたい。
まさに、神視点てやつ?
宇宙人は僕がいるのに気がつくと、急いで家の中に隠れちゃうんだ。
それもしょうがないことなんだよね。
ここにいる時の僕って、本当に大きいんだ。
どれぐらいって、街がミニチュアに見えるぐらい。
ちょっと腕を振り下ろしたら、ビルは粉々に砕けきっちゃうし、横に振り切れば、地ならししたみたいに、家も宇宙人も吹っ飛んじゃう。
よーく聞かないと聞こえないけど、何か宇宙語でずっと叫んでるみたい。
でも僕は気にしない。毎日面白くもない学校に通って、ストレスってやつが溜まるわけ。
そんな僕をかわいそうに思った神様からのプレゼントなんだよ。そうに決まってる。
だから、僕は今日もこの街を壊しちゃうんだ!
がおー。
あー今日も面白かった。
じゃあ、そろそろお風呂から出ようかな。あんまり長いとお母さんに怒られちゃう。
ん?なぁに、なんかこっちに向かって宇宙語で話しかけてきてるみたい?いつもより大きな声。
何言ってるかわかんないし、もういいって。
僕は話しかけてる宇宙人を手で掴んで、握り潰す。
ぶちゅっと音が出て、手から緑色の液体が滲み出る。
うえっ汚いなぁ。虫みたい。
僕はお風呂から顔をあげてから、自分の手のひらを確認する。緑の液体がこびりついて、洗っても取れない。
何度も擦って、少し薄くなったところで諦めた。
手のひらがヒリヒリする。
ちょっとやりすぎたかも。手のひらに残る感覚が、なんだか気持ち悪いや。
それから数日経って、久々にお風呂に顔をつけてみた。
なんか、ちょっと気持ち悪かったから我慢してたんだよね。でも、あれ?なんだか宇宙人がいないや。
こないだ全員ころしちゃったっけ?
うーん、わかんない。でも、この街も、もう大体壊れちゃったし、飽きちゃったなぁ。
それから更に数日経った日。
朝起きると、お母さんが珍しくニュースをみていた。
お父さんは毎日みてるけど、お母さんは大体、忙しい忙しいって動き回ってるのに、何かあったのかな。
僕が椅子に座ると、お母さんがトーストを置いてくれた。
僕が苺ジャムを塗りたくって、食べてると、ニュースキャスターの人の声が聞こえてきた。
『宇宙人は、この星の住人に、街を壊滅された。その復讐として、侵略しにきたと主張しています』
「宇宙人なんて、本当なのかしらねぇ」
お母さんがそう言いながら、牛乳をコップに注いでくれる。僕はそれを受け取って、一気に飲み干す。
「まぁ、でも動画まで公開されてるしなぁ。ほら、これ」
お父さんの声で、テレビをみる。
僕は、目をまんまるくしてたと思う。
だって、テレビに映ったのは、僕がよく遊んでた宇宙人達だったから。
『もし、この大量殺戮犯を差し出した場合は、侵略を中止する、そう宇宙人達は主張しており――』
パッとテレビ画面が変わる。
そこには、雲の中から伸ばされた大きな腕と、奥の方に目だけが薄ら映っていた。
もう口には何にも入ってないのに、唾をごくりと飲み込む。
「これ、人間なのか?でかくないか」
父さんの言葉に、僕は安心する。
これなら、僕だってわからないよね。ああ、よかった。
また、急にテレビの画面が変わる。
『宇宙人は、無差別に攻撃を開始しています! 皆さん自らの命を守って……』
そう話していたはずの、ニュースキャスターの人の頭が、眩しい光線を浴びて、ぶっ飛ぶ。
テレビからは叫び声や、爆発音がして、何も映らなくなった。
僕は、だんだん怖くなってきた。
おもわず、お父さんの手を握ると、お父さんが優しい顔で握り返してくれた。
外から、叫び声とか激しい音が、たくさん聞こえてくる。
お母さんがヒステリックに、「犯人、早く投降しなさいよ!」と叫ぶ。
僕は俯いて、黙っている。
違う、あれはただのゲームだったんだ。
そう、こんなつもりじゃなかったんだ。
窓の外では、大きな光が迫っている。
僕はただただ、自分の握りしめた拳を見つめ続けた。




