第九話 勇者、中立を宣言して全方位を敵に回す
王都・中央会議室。
空気が、重い。
王国側の重鎮たち。
ギルド代表。
そして――なぜか同席している魔王軍の外交官レイヴン。
「……状況が状況なのでな」
王様が咳払いをする。
「本日は“非公式・非記録”の場だ」
「記録してますけど」
セシリアが即答した。
「後で封印します」
仕事が早い。
「では、勇者ユウ」
宰相が口を開く。
「改めて問う。
お前は、どちらの側につく?」
来た。
王国か。
魔王軍か。
全員の視線が、俺に刺さる。
頭の中で、例の声。
《最適解を提示可能》
《選択による犠牲を最小化します》
……でも。
「今回は、
聞いてない」
声が、止まった。
完全に。
俺は、立ち上がる。
「俺は、
王国にも、魔王軍にもつかない」
ざわっ!!
「正気か!?」
「それは裏切りだぞ!」
「中立など、幻想だ!」
全部、想定内。
でも。
「俺は、
誰かが決めた正義のために戦わない」
静かに、言った。
「戦争をしたいなら、
理由も責任も、
自分たちで背負ってくれ」
セシリアが、目を見開く。
「……それは……
あまりにも、重い要求です」
「分かってる」
だからこそ。
「俺は、
戦争を止める側に立つ」
沈黙。
レイヴンが、ゆっくり口を開いた。
「……魔王陛下の予測通りだ」
「予測?」
「あなたは、
“第三の立場”を選ぶと」
王様が苦しそうに言う。
「それは……
誰からも守られない立場だぞ……」
「知ってる」
俺は、笑った。
「だから、
自分で守る」
その瞬間。
空気が、変わった。
圧でも、殺気でもない。
“立場”が生まれた感覚。
頭の中に、最後の通知。
《宣言を確認》
《所属:なし》
《立場:中立・調停者》
《外部命令遮断》
「……だからフェーズ表示やめて」
でも、今回は。
悪くなかった。
会議後。
廊下。
リィナが壁にもたれていた。
「……派手にやったな」
「全方位敵対、
人生初だよ」
彼女は、少し笑ってから言った。
「でも……
あんたらしい」
セシリアも追いつく。
「……正直に言います」
「どうぞ」
「その選択、
法的にも政治的にも最悪です」
「ですよね」
「でも」
彼女は、まっすぐ俺を見た。
「“人として”は、
一番筋が通っています」
胸が、少しだけ軽くなった。
その夜。
王都の外れ。
三人で星を見ていた。
「なあ」
俺が言う。
「俺、
静かに暮らしたかったんだけど」
リィナが即答。
「無理」
セシリアも頷く。
「不可能です」
だよな。
遠くで、雷鳴。
戦争の前触れか、
変革の合図か。
頭の中で、
声はもう響かない。
代わりに。
自分の声が、はっきり聞こえた。
「……それでも、
壊さずにやってみるか」
三人は、黙って頷いた。




