第七話 勇者、正論と本音に挟まれて詰む
王都への帰還翌日。
なぜか俺たちは、同じテーブルを囲んでいた。
「……で」
セシリアが書類を机に並べる。
「本日から、私も同行します」
「決定事項!?」
「王命です」
即答。
リィナが腕を組む。
「……監視役が増えた」
「違います」
セシリアは眼鏡を直す。
「倫理管理役です」
嫌な役職名だな。
ギルド。
依頼掲示板の前で、三人が並ぶ。
「依頼は、
被害・影響・法的問題の少ないものを選びます」
セシリアが言う。
「……つまり?」
「護衛、調停、交渉、環境修復」
「戦闘ほぼゼロじゃん」
「理想的です」
リィナが鼻で笑った。
「現実は甘くない」
その瞬間。
【依頼:盗賊団討伐】
【報酬:金貨50枚】
「高い」
俺が言う前に、リィナが見た。
「……討伐対象、
“元王国兵”」
空気が、変わる。
セシリアが即座に口を開く。
「この依頼は却下です」
「理由は?」
「社会的背景が複雑すぎる。
武力解決は、
長期的に治安を悪化させます」
リィナが睨む。
「でも、
今被害を受けてる村は?」
「救済は別ルートで行うべきです」
「……悠長」
二人の間に、火花。
俺は、板挟み。
結局。
依頼は受けた。
討伐ではなく、無力化と保護。
現地の廃砦。
盗賊団は、確かに荒れていた。
「……来るな!」
剣を構えた男が叫ぶ。
目が、必死だ。
頭の中で声。
《最適化を推奨》
俺は、首を振る。
「使わない」
代わりに、前に出た。
「話をしよう」
「……勇者?」
盗賊たちが、ざわつく。
リィナが小声で言う。
「油断するな」
セシリアも頷く。
「記録、取ってます」
緊張感、すごい。
交渉は、難航した。
元兵士たちは、
戦争後に切り捨てられていた。
「居場所がなかった」
「働き口もなかった」
……重い。
その時。
後方から、矢。
ヒュッ。
俺の体が、勝手に動く。
矢は、地面に落ちた。
《危険を排除しました》
「……っ」
セシリアが、俺を見る。
「……今のは?」
「反射的に……」
「介入は、
最小限だった」
評価されてる。
リィナは、ため息。
「……成長してるな」
それ、褒め言葉?
最終的に。
盗賊団は武装解除。
王国の更生プログラムへ。
村への被害は止まり、
死人は出なかった。
帰り道。
「……疲れた」
俺が言う。
リィナが笑う。
「戦うより、疲れるだろ」
セシリアが静かに言った。
「でも……
あなたは今日、
三つの選択肢を同時に守った」
「三つ?」
「命。
秩序。
そして——」
少し間を置いて。
「あなた自身」
その言葉が、妙に胸に残った。
その夜。
宿の部屋。
頭の中に、通知。
《新評価:自律型存在》
《外部指示なしでの判断能力を確認》
「……評価されるの、
そんなに嬉しくないんだけど」
だが。
確かに。
俺は少しずつ、
“ただのバグった勇者”じゃなくなっている。
静かに暮らす夢は遠い。
でも。
壊さずに生きる道は、
少しずつ見えてきた気がした。




