第五話 勇者、魔王軍から丁寧に勧誘される
翌朝。
王都は、異様なほど静かだった。
「……静かすぎない?」
宿の窓から外を見て、俺は言った。
「警戒態勢」
リィナが即答する。
「昨夜、王都上空に
魔王軍の正式紋章付き飛行体が確認された」
「正式ってなに!? テロじゃないの!?」
「外交」
嫌な単語だ。
正午。
王城・謁見の間。
俺はなぜか、王様の隣に立たされていた。
「位置おかしくない?」
「勇者様は“案件そのもの”ですので」
そんな分類ある?
扉が開く。
——現れたのは。
「失礼いたします」
やたら礼儀正しい魔族だった。
黒いスーツ、銀縁の眼鏡、丁寧なお辞儀。
「魔王軍外交官、
レイヴンと申します」
「……え、普通に社会人?」
「はい」
ギルドマスターが警戒する。
「魔王軍が、何の用だ」
レイヴンは微笑んだ。
「勇者ユウ殿に、
正式な“お話”を」
嫌な予感しかしない。
会議室。
円卓。
なぜか、俺・リィナ・王様・魔王軍外交官。
お茶まで出てる。
「まずは、率直に申し上げます」
レイヴンが切り出した。
「勇者ユウ殿は——
想定外です」
「ですよね」
「魔王軍の脅威評価システムが、
初めて“測定不能”を返しました」
リィナが顔をしかめる。
「だから暗殺を?」
「いいえ」
レイヴンは首を振る。
「接触すら危険と判断されました」
「ひどくない?」
レイヴンは、資料を置いた。
「結論から言います」
空気が張りつめる。
「魔王軍は、
勇者ユウ殿を敵に回したくありません」
王様が目を見開く。
「……降伏、ということか?」
「違います」
レイヴンは穏やかに笑う。
「共存の提案です」
「……は?」
リィナが声を荒げる。
「勇者と魔王軍が!?
前代未聞すぎる!!」
「ええ。ですが」
レイヴンの目が、真剣になる。
「勇者ユウ殿は、
“勝つため”ではなく
“壊さないため”に力を使っている」
……なぜそれを。
「我々は、そこに希望を見ました」
沈黙。
俺は頭をかいた。
「……つまり?」
「魔王討伐ルートを凍結し、
世界維持協定を結びたい」
「スケールでかすぎる!!」
その瞬間。
頭の中で声。
《交渉内容を解析中》
《最適化対象を“世界全体”に拡張します》
「やめろォォォ!!!」
俺が叫んだ瞬間。
——会議室の空気が、整った。
怒りも、殺気も、恐怖も、
すっと消えた。
全員が、冷静。
「……?」
レイヴンが、ゆっくり息を吐く。
「……なるほど」
王様も、ぽつり。
「……この場で争うという選択肢が、
頭から消えた……」
リィナが俺を見る。
「……ユウ」
「違う! 俺は何もしてない!!」
《精神干渉を“対立が起きない最低値”に調整しました》
「最低値の概念どうなってんの!?」
レイヴンは、深く頭を下げた。
「……確信しました」
「何を」
「あなたは、
剣よりも危険な勇者だ」
やめてくれ。
「ですが同時に」
彼は微笑む。
「最も、
話が通じる勇者でもある」
会議は、保留で終わった。
魔王軍は一時撤退。
俺は廊下で、壁にもたれた。
「……俺、
戦わなくても世界に影響出してない?」
リィナは、苦笑い。
「もう出てる」
そして、真剣な目で言った。
「でも……
あなたがいるなら、
この世界は“壊れずに変われる”かもしれない」
その言葉が、
やけに重かった。
頭の中で、最後の通知。
《新フェーズ:世界調停者 が解放されました》
「……やめて?
俺、静かに暮らしたいだけなんだけど?」
答えは、なかった。




