第四話 勇者、ギルドで伝説を量産する
翌朝。
俺とリィナは、王都冒険者ギルドの前に立っていた。
「……人、多くない?」
「多すぎる」
ギルドの前には、普段の三倍はあろうかという冒険者の列。
しかも、全員こっちを見てる。
視線が痛い。
「なんで俺を見る」
リィナがぼそっと言った。
「“Fランクで魔将軍を倒した勇者がパーティを組むらしい”って噂、
昨日のうちに広まった」
「情報漏洩どうなってんのこの国」
ギルドに入った瞬間、空気が変わった。
ざわ……ざわ……
「……あの人だ」 「静かにして、気づかれる」 「視線を合わせるな」
完全に危険生物扱いである。
受付嬢(二話の人)が、涙目で俺を迎えた。
「ゆ、勇者様……本日は……?」
「パーティ登録したいです」
「……っ!!」
彼女は一瞬、深呼吸した。
「ど、どなたと……?」
俺は横を見る。
「この人」
リィナが一歩前に出た。
「リィナ。職業、暗殺者……じゃなくて斥候」
ギルド内が、完全に静止した。
「《灰の目》の……?」 「王直属の影……?」 「そんな人間が、勇者の隣に……?」
やめて。
どんどん話が盛られていく。
登録水晶に手を置く。
【パーティ名:未設定】
「名前どうする?」
「目立たないのがいい」
「じゃあ……」
リィナが少し考えて言った。
「《最適解》」
「それ目立つやつだろ!!」
しかし。
水晶が、勝手に光る。
【パーティ名:《最適解》】
「確定しないで!?」
《承認:この名称が最も誤解を招きません》
「絶対嘘だろ」
その時。
ギルド奥の扉が開いた。
「……勇者ユウ」
現れたのは、重装備の大男。
ギルドマスターだ。
「確認したいことがある」
「嫌な流れだ……」
「ここで模擬戦をしてもらう」
ざわっ!!
「安心しろ。
相手は——」
ギルドマスターが、後ろを振り向く。
「Sランク三人だ」
「安心どころか死亡フラグじゃん!!」
模擬戦場。
Sランク冒険者三人が構える。
「恨みはないが……」 「全力でいく」 「死なせはしない」
優しいな。
開始の合図。
俺は動かない。
三人、同時突撃。
次の瞬間。
ドン。
……音だけがした。
三人は、地面にめり込んでいた。
気絶。
骨折なし。
血も出てない。
《衝突を“戦闘不能になる最低値”に調整しました》
ギルドマスターが、ゆっくり兜を外す。
「……確認できた」
「何を?」
「お前は——
この国で最も、戦わせてはいけない男だ」
やめて、称号増やさないで。
その頃。
遥か彼方、魔王城。
「報告です」
黒衣の魔族が膝をつく。
「勇者ユウ、
Sランク三名を“無傷で瞬殺”」
魔王は、玉座で指を組んだ。
「……厄介だな」
幹部が問う。
「討伐を?」
「いや」
魔王は、微笑んだ。
「接触を試みろ」
「交渉……ですか?」
「そうだ」
魔王の目が、細められる。
「力が強すぎる存在は、
敵に回すより——
理解した方が、安い」
王都の宿。
ベッドに倒れ込み、俺は呟いた。
「……静かに暮らしたいだけなんだけどなぁ」
リィナは苦笑した。
「もう手遅れ」
窓の外、夜空に不穏な気配。
頭の中で声が響く。
《警告:魔王軍からの“正式な招待”を検知》
「……招待?」
嫌な予感しかしない。




