第二話 勇者、初めての街で常識を失う
「では勇者様、こちらが王都となります」
城を出て数分。
石畳、露店、活気ある人々——いかにもファンタジーな街並みが広がっていた。
「おお……異世界って感じ……」
内心ワクワクしつつも、俺は気づいていなかった。
俺が歩くたびに、人が避けていることに。
「……なあ王様、なんか視線感じない?」
「当然です」
王様は真顔だった。
「魔将軍を“指で処理”した勇者様ですぞ?
今や王都では『静かなる破壊者』として噂になっております」
「誰がそんな二つ名つけたんだよ!!」
武器屋に入る。
「剣、一本欲しいんだけど」
店主が俺を見るなり、ガタッと後ずさる。
「ゆ、勇者様……ど、どの剣を……?」
壁一面に並ぶ剣。
どれも強そうだが、値札を見ると高い。
「安いやつでいいです」
俺が指差したのは、一番端にあったサビだらけの剣。
——瞬間。
店内が凍りついた。
「ま、まさか……
“力を抑えるため、あえて呪剣を……”」
「え? これ呪われてんの?」
「三人の熟練冒険者が持った瞬間、腕が砕けた曰く付きです……!」
やめとこうかと思った、その時。
《武器性能を“安全に扱える最低値”に調整します》
……またか。
「じゃあこれで」
「……勇者様……恐れ入りました」
なぜか、店主が土下座した。
次はギルド。
「登録だけしたいんだけど」
受付嬢が俺を見て、固まる。
「……勇者、様……?」
「うん、まあ一応」
「一応……」
彼女は震える手でギルドカードを作り始めた。
「ランクは……Fからで……?」
「それでいいです。平和にやりたいんで」
その瞬間。
周囲の冒険者たちが、ざわついた。
「F……だと……?」 「99を倒した勇者が……?」 「これは……“身分を隠す猛者”……!」
いや、普通に初心者なんだけど!?
掲示板を見る。
【依頼:ネズミ駆除】
【報酬:銅貨5枚】
「ちょうどいいな」
ダンジョンに入ると、ネズミが一匹。
小さい。
弱そう。
俺は軽く剣を振った。
スッ。
ネズミは……消えた。
跡形もなく。
《攻撃力を“苦痛を与えず消滅させる最低値”に調整しました》
「……いや、やりすぎでは?」
ギルドに戻ると。
「ね、ネズミが……一瞬で……」
「ダンジョンの魔力残滓すら消えている……」
職員が騒然。
受付嬢が、潤んだ目で言った。
「……勇者様は……
命にすら、配慮なさるお方なのですね……」
違う。
勝手に最適化されてるだけだ。
その夜。
宿のベッドで、俺は天井を見つめていた。
「……静かに暮らすの、無理じゃね?」
その瞬間、窓の外から不穏な気配。
頭の中に、また声。
《警告:王都地下で“観測不能な存在”が活動中》
「……は?」
影の中から、低い声が響いた。
「勇者ユウ……
お前の力、測らせてもらう」
——どうやら、この世界。
俺を放っておく気はないらしい。




