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第十五話 勇者、守れない命を知る


 均衡教団の集会が始まった、その夜。

 俺たちは、先に動いた。

「孤児院の子どもたちを、

 一時的に別施設へ避難させる」

 セシリアの案だった。

「選択を迫られる状況そのものを、

 断ち切ります」

「……強引だな」

 リィナが言う。

「でも、

 今はそれしかない」

 俺は、頷いた。

「答えを与えないために、

 時間を奪う」

「……皮肉だな」

 分かってる。

 でも、放置よりはマシだと思った。

 夜明け前。

 小規模な部隊で、孤児院へ。

 子どもたちは、眠そうな目で連れ出された。

「……勇者様?」

 あの少女が、不安そうに俺を見る。

「ちょっとだけ、

 お出かけだ」

「司祭様は?」

 ……答えに詰まる。

「……後で、

 ちゃんと話せる」

 嘘じゃない。

 全部は言ってないだけだ。

 その瞬間。

 鐘が鳴った。

 ——警告。

「来るぞ」

 リィナが、低く言う。

 闇の中から、教団の信徒たちが現れた。

 武器は持っていない。

 代わりに、目が怖い。

「子どもたちを返せ!」

「勇者が、

 均衡を乱している!」

 ノルンが、中央に立つ。

「……残念です、勇者ユウ」

 静かな声。

「あなたは、

 “選ばせない”という名の

 支配を選んだ」

「違う」

 俺は、前に出る。

「今は、

 選ばせるべきじゃない」

「誰が、

 それを決めたのですか?」

 ——痛い。

 ノルンは、微笑んだ。

「結局あなたも、

 判断者になった」

 その言葉に、

 一瞬、迷いが生まれた。

 ——その瞬間だった。

 悲鳴。

 子どもたちの後方。

 小さな影が、倒れた。

「……っ!」

 駆け寄る。

 血。

 石段で、頭を打っていた。

「……そんな……」

 少女だった。

 さっきまで、

 俺と話していた子。

「医者を!!」

 セシリアが叫ぶ。

 でも。

 間に合わなかった。

 静寂。

 誰も、動けない。

 ノルンの表情が、

 初めて崩れた。

「……これは……」

 事故だ。

 故意じゃない。

 でも。

 俺たちが動かなければ、

 起きなかった事故。

 少女の手が、

 力なく俺の袖を掴む。

「……勇者様」

 かすれた声。

「……選ぶの、

 こわかった」

 喉が、詰まる。

「……ごめん」

 それしか、言えなかった。

 少女は、

 小さく笑った。

「……でも」

「考えられた」

 それが、最後だった。

 夜。

 その場は、解散となった。

 教団は沈黙。

 王国は、事実を伏せた。

 だが。

 死は、消えない。

 野営地。

 俺は、一人で座っていた。

「……俺のせいだ」

 リィナが言う。

「事故だ」

「でも」

 俺は、拳を握る。

「守れなかった」

 セシリアが、静かに言った。

「……あなたは、

 “最善”を選びました」

「最善でも、

 人は死ぬんだな」

 初めて。

 はっきりと理解した。

 力があっても、

 思想に介入しても、

 全員は救えない。

 頭の中に、声はなかった。

 でも。

 もう、求めてもいなかった。

「……俺さ」

 震える声。

「もう、

 きれいごとだけで

 やるの、無理だ」

 リィナが、頷く。

「それでも、

 進むんだろ」

 俺は、顔を上げた。

「……ああ」

「逃げない」

「でも、

 神にもならない」

 少女の最後の言葉が、

 胸に残る。

 ——考えられた。

 それが、救いだったのか。

 それとも。

 ただの言い訳なのか。

 答えは、まだ出ない。


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