表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/18

第十四話 勇者、選ばせるという残酷さを知る



 均衡教団の中で、異変が起き始めた。

「司祭様……質問が増えています」

 信徒の報告に、ノルンは静かに頷いた。

「いい傾向です」

「……いい、のですか?」

「ええ」

 ノルンは微笑む。

「“問い”は、

 答えに従う者をより強くする」

 彼の中で、計算はすでに終わっていた。

 一方、孤児院。

「……勇者様」

 昨日話した少女が、俺を呼び止めた。

「どうした?」

「……分かんなくなった」

 その言葉が、胸に刺さる。

「司祭様の言うことも、

 安心できる」

「でも、

 勇者様の言うことも……

 分かる」

 少女は、俯いた。

「どっちが、

 正しいの?」

 ——それだ。

 俺は、即答できなかった。

 できるはずが、なかった。

「……分からない」

 また、そう言った。

「でも」

 俺は、目線を合わせる。

「選ぶのは、

 君自身だ」

 少女の目が、揺れる。

「……選んで、

 間違えたら?」

 ……一番、怖い質問。

 俺は、正直に答えた。

「その時は」

「間違えたって、

 言えばいい」

「俺も、

 そうしてる」

 少女は、しばらく黙っていた。

 そして。

「……怖い」

 小さな声。

 ——そうだ。

 自由は、

 安心よりずっと怖い。

 その夜。

 教団内で、口論が起きた。

「司祭様の教えに、

 疑問を持つな!」

「でも、

 勇者様は……」

 分裂。

 静かだが、確実な亀裂。

 セシリアが報告書を閉じる。

「……状況、

 最悪です」

「だよな」

「思想対立は、

 必ず“敗者”を生みます」

 リィナが低く言う。

「その敗者が、

 誰になるか……」

 三人とも、分かっていた。

 子どもたちだ。

 その時。

 鐘の音。

 教団の集会が、始まった。

 ノルンの声が、広場に響く。

「迷う者たちへ」

「均衡は、

 弱さを許しません」

 子どもたちが、集められる。

 俺は、拳を握った。

「……これ以上、

 選ばせ続けるのは」

「暴力だ」

 セシリアが、静かに言う。

「ですが……

 止め方を間違えれば、

 あなたが“奪う側”になります」

 リィナが、俺を見る。

「どうする?」

 頭の中に、声はない。

 最適化もない。

 だからこそ、

 俺が決めるしかない。

「……選ばせるのを、

 一旦止める」

 二人が、目を見開く。

「答えを与えるんじゃない」

「でも」

 俺は、はっきり言った。

「選ばなくていい時間を、

 作る」

 ノルンは、すぐ気づくだろう。

 これは。

 思想への、

 初めての直接介入だ。

 静かで、

 でも確実な一手。

 俺は、息を吸った。

「……行こう」

 怖い。

 でも。

 見て見ぬふりよりは、

 マシだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ