表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/18

第十三話 勇者、謝る


 翌朝。

 俺は、一人で均衡教団の孤児院に戻ってきた。

「……止めなくていい」

 門の前で止めようとした兵に、そう言う。

「今日は、

 何かを命じに来たんじゃない」

 兵は戸惑いながらも、道を開けた。

 中庭。

 子どもたちは、俺を見るなり固まった。

「……勇者様だ」

「昨日、司祭様を……」

 責める目。

 怯える目。

 失望。

 胸が、痛む。

 俺は、しゃがみ込んだ。

「……ごめん」

 それだけ言った。

 誰も予想していなかった言葉だったらしい。

「昨日、

 俺は間違えた」

 子どもたちが、ざわつく。

「悪いことをしてるって、

 決めつけた」

「君たちの“安心”を、

 ちゃんと見なかった」

 言葉を選ばない。

 正しく見せない。

 ただ、正直に言う。

「でも」

 俺は、続けた。

「俺は、

 司祭様の考えに

 賛成できない」

 視線が、集まる。

「誰かが決めた答えだけを信じるのは、

 いつか、

 君たち自身を苦しめるかもしれないから」

 一人の子が、震える声で聞いた。

「……じゃあ、

 どうすればいいの?」

 ……それだ。

 俺は、答えなかった。

「分からない」

 正直に言った。

「俺にも、

 分からない」

 空気が、止まる。

 でも。

「だから」

 俺は、指で地面を叩いた。

「一緒に考えたい」

「俺も、

 ここで答えを探す」

 子どもたちは、困惑していた。

 でも。

 嘘じゃないと、

 伝わった気がした。

 拍手が、一つ。

 ノルンだった。

「……見事です、勇者ユウ」

 穏やかな笑顔。

 でも、目は鋭い。

「あなたは、

 “権威”を捨てた」

「それは、

 人を惹きつける」

 俺は立ち上がる。

「……俺は、

 あなたを倒しに来たんじゃない」

「知っています」

「でも」

 はっきり言う。

「子どもを、

 自分の思想の完成品にするな」

 ノルンは、少しだけ沈黙した。

「……彼らは、

 迷わなくて済む」

「迷う権利を、

 奪ってる」

 空気が、張る。

 その時。

 一人の少女が、前に出た。

「……司祭様」

 小さな声。

「勇者様の言うこと、

 ちょっと……

 分かる」

 ノルンの表情が、

 初めて揺れた。

「……どういう意味ですか?」

「だって……」

 少女は、俺を見る。

「勇者様、

 正解知らないって言った」

「でも……

 ここにいるって」

 それは。

 教団の教えにない行動だった。

 ノルンは、ゆっくり息を吐いた。

「……なるほど」

 彼は、俺を見た。

「あなたは、

 思想で殴らない」

「だから、

 危険なのです」

 笑顔に、影。

「ですが」

 ノルンは、一歩下がった。

「今日は、

 ここまでにしましょう」

「……逃げるのか」

「いいえ」

「育てます」

 ぞっとする言い方だった。

「彼らが、

 どちらを選ぶか」

 ノルンは、静かに言った。

「“答え”か、

 “問い”か」

 そして、去っていった。

 その夜。

 拠点に戻った俺は、

 どっと疲れが出て、座り込んだ。

「……謝るの、

 めちゃくちゃしんどいな」

 リィナが言う。

「でも、

 正しかった」

 セシリアも、頷いた。

「あなたは、

 初めて“上に立たなかった”」

「それが、

 最大の介入です」

 俺は、空を見上げた。

「……俺さ」

「世界を導くとか、

 無理だと思う」

 でも。

「一緒に迷うことなら、

 できるかもしれない」

 二人は、静かに頷いた。

 その頃。

 均衡教団・内部。

 信徒の一人が、ノルンに言った。

「司祭様……

 子どもたちが……

 質問を始めました」

 ノルンは、目を閉じた。

「……ええ」

 そして、微笑む。

「それでいい」

 だが、その笑みは。

 試す者の笑みだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ