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第十一話 勇者、答えを出せない夜

 均衡教団の司祭ノルンが去った後。

 その夜は、誰も口を開かなかった。

 焚き火の音だけが、やけに大きい。

「……見張り、交代でやろう」

 俺が言うと、二人は黙って頷いた。

 でも分かる。

 空気が、昨日までと違う。

 深夜。

 俺が一人で火のそばにいると、足音。

「……起きてたの?」

 リィナだった。

「まあな」

 彼女は火の向かいに座る。

「……さっきの司祭」

「ノルン?」

「うん」

 少し間があって、彼女は言った。

「……あいつの言葉、

 全部間違ってるとは思わない」

 来た。

 胸が、少しだけ痛む。

「……どういう意味だ」

 リィナは、焚き火を見つめたまま言う。

「私は暗殺者だった」

「知ってる」

「命令があって、

 対象がいて、

 理由は後から付いてきた」

 彼女は、笑った。

 自嘲気味に。

「でもね。

 “これは正しい”って言われると、

 人は楽になる」

「……」

「迷わなくていいから」

 俺は、何も言えなかった。

 少しして、今度はセシリアが来た。

「……話、していいですか」

「どうぞ」

 彼女は、真っ直ぐ俺を見た。

「あなたの中立宣言。

 法の観点から言えば……」

 一瞬、言葉を切る。

「最悪です」

「だろうな」

「ですが」

 声が、少し震えた。

「私は……

 正しいと思いたい」

 彼女は、拳を握る。

「法は、人を守るためにある。

 でも、法だけでは……

 救えない瞬間もある」

「……」

「あなたは、

 そこに立っている」

 セシリアは、はっきり言った。

「だから私は、

 あなたを支持します」

 リィナが、驚いたように見る。

「……本気?」

「ええ」

 セシリアは、目を逸らさない。

「ですが条件があります」

「条件?」

「あなたが、

 一人で決めないこと」

 ……重い。

 二人が去った後。

 俺は一人で、空を見上げた。

 頭の中に、声はない。

 最適化も、評価も、称号も。

 ただ、自分の考えだけ。

「……正義になれって言われてもな」

 ノルンの言葉が、蘇る。

 ――人は、答えをくれる存在を求める。

 それは、真実だ。

 だからこそ。

「……俺が答えになるのは、

 違う気がする」

 でも。

 答えを拒み続けることも、

 また一つの暴力なのかもしれない。

 初めて。

 剣も、魔法も使わず。

 俺は、完全に立ち尽くしていた。

 その頃。

 遠く離れた町で。

 均衡教団の集会。

「勇者は、

 答えを拒んだ」

 ノルンは、静かに語る。

「だから我々が、

 答えを示す」

 信徒たちの目が、輝く。

「均衡の名の下に」

「迷いなき世界を」

 拍手。

 熱狂。

「そしていつか」

 ノルンは、微笑んだ。

「勇者自身に、

 選ばせましょう」

 “支配する正義”か、

 “無力な中立”かを。

 夜明け。

 俺は、仲間に言った。

「……次は、

 均衡教団を調べる」

 リィナが頷く。

「危険だぞ」

「分かってる」

 セシリアも、頷いた。

「法的には、

 グレーどころか黒です」

「じゃあ」

 俺は、深く息を吸う。

「……戦わずに、

 止める方法を探そう」

 二人は、少しだけ笑った。

 無謀だ。

 面倒だ。

 でも。

 それでも。

 逃げるよりは、マシだ。


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