表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/31

第24章 仮面の裂け目


深夜二時。ミカは一人、渋谷の小さなバーにいた。

店の奥の席でスマホを握り、何かを躊躇うように見つめている。

指先が止まっては、また動く。開かれたのは「Tor Browser」。

ダークウェブの投稿画面が表示されていた。

そこに表示されたタイトルは――

《K2計画:裏社会と政界の密約構造/供給元リストver.3》。


ミカの手が震えている。

だがその震えは恐怖ではなかった。むしろ――興奮に近かった。


「お前も、こっち側に来たんだな……アヤカ」


自嘲気味な声でつぶやくと、彼女は画面を閉じた。


翌朝。アヤカはミカと共に朝の新宿を歩いていた。

これまでになく晴れた日だった。

なのに、胸の奥はずっとざわついていた。

ミカの視線、言葉、歩調。何かが噛み合わない。

昨日感じた「違和感」が、もう誤魔化しの効かない濃度になっていた。


「ねぇ、ミカ」

「ん?」

「……あたしの“父親”が誰か、知ってた?」


ミカは、すっと歩くのを止めた。

「……うん。知ってた。ごめん」


アヤカの心臓が一瞬、止まった気がした。

「いつから?」

「出会ってすぐ。風俗店の面接票に、“出生地”と“旧姓”が書いてあった。それでピンときた。私、彼の秘書官だったから」


アヤカの頭が真っ白になる。

ミカの瞳は静かだった。泣いても笑ってもいない。ただ、澄んでいた。


「最初は、調査のために近づいた。でも……一緒にいるうちに、気づいたんだ。私は、あなたに惹かれてた。敵なのに」

「じゃあ、今も……裏切るつもりで?」

「わからない。でもね、アヤカ。あなたは本当に“使われる側”で終わる女じゃない。私にはない力を持ってる」


ミカはスマホを取り出し、アヤカに一枚の写真を見せた。

そこには、政治家の男とミカ、さらに企業幹部たちとともに笑顔で写るアヤカの“父親”の姿があった。

完全な“癒着の証拠”。これまでミカが黙って握っていた、決定的な材料。


「私にできるのは、ここまで。これであなたは、本当に一人になる。でも、もう誰にも頼らなくていい」


アヤカは言葉が出なかった。

ミカは最後にひとことだけ言った。


「次に会うときは、お互い別の名前かもしれないね」


そう言って、彼女は人混みへと消えた。


その晩、アヤカは六本木の高級ホテルにいた。

密かに招かれたパーティー。その裏側では、政治家と実業家の密談が行われていた。


アヤカはその中心に、自らの足で踏み入れた。

父親と再会するために。

復讐か、対話か――答えはまだ出ない。

けれど、彼女はもう迷ってはいなかった。


ミカという“仮面の友”を失った今、

彼女自身が“何を選ぶか”がすべてを決める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ