第23章 告発と接触
アヤカは、レオから託されたUSBを再び手に取った。
白いプラスチックの小さなその塊に、どす黒い闇がぎっしり詰まっていることを、彼女は知っていた。
USBの中身は、複数の不正献金リスト、裏口入学の音声記録、そして――性接待の証拠動画。
再生するたび吐き気がした。けれど、これが真実だ。
この腐った日本の上層部が、女たちを使い捨てにして築いてきた偽りの“上級国民社会”。
「やり返すんだ。全部、暴く」
アヤカとミカは、ある計画を立てた。
それは、この証拠を新聞社や週刊誌ではなく、ある匿名リークプラットフォームに提出すること。
海外サーバーを経由し、提出者の特定は不可能。ジャーナリストやハッカーが集まり、巨大組織の腐敗を暴いてきた“実績のある場所”だった。
夜明け前、アヤカはマンションの一室でその手続きを終えた。
その直後、携帯に非通知の着信。
背筋が凍る。だが、アヤカは応じた。
「……アヤカさんですね」
男の声。聞き覚えがないが、何かを知っている雰囲気だった。
「今夜、ホテルアマンのラウンジで会えませんか。直接お渡ししたいものがあります」
アヤカはミカにだけメッセージを残し、その場所へ向かった。
ホテルのロビーは静かで気品があり、アヤカの心臓の鼓動がやけに大きく響く。
指定されたラウンジの奥、ソファ席に、その男は座っていた。
黒いスーツ、年齢は40代半ば。元政治家、あるいは官僚のような空気をまとっていた。
「初めまして。私の名前は名乗れませんが、あなたの“父親”とは旧知の仲です」
「……なんの用?」
「簡単に言えば、“あの人”を引きずり下ろしたい。あなたと手を組めば、それが可能になる」
男は書類の束を差し出す。それは、かつてアヤカの母に支払われていた秘密手当の記録だった。
「あなたが“正真正銘の娘”であることを証明する書類です。しかも、非公式にDNA鑑定された結果もある」
アヤカの手が震える。
「あなたは“私生児”ですが、相続権もあるし、彼を告発すれば社会的にも立場を持てる」
「私を、どう利用したいの?」
「逆だよ。あなたは、“使われる側”じゃなく、“使う側”になれる」
その言葉は、アヤカの胸を深く揺さぶった。
数時間後、アヤカはミカの部屋に戻った。
「何があったの?」ミカがすぐに聞く。
アヤカはすべてを話した。USBをリークしたこと、匿名の男のこと、そして父親との確かな血のつながり。
ミカは黙って話を聞き、数秒の沈黙ののち、こう言った。
「……すごいじゃん。でも、気をつけて」
「うん」
「“味方の顔をした敵”が一番やっかいだからね」
その一言が、今までにない重さでアヤカの心に刺さった。
なぜならアヤカもまた、ほんの一瞬だけ、
――ミカの笑顔の奥に、微かな“違和感”を感じていたのだから。