第2章 抜け出せない闇
アヤカの一日は、午前中の病院から始まる。
精神科の待合室は薄暗く、無表情な患者たちが順番を待っていた。彼女もまた、体内に溢れる不安を押さえ込むため、処方された薬を欠かさず飲んでいた。
診察室で医師は淡々と彼女の症状を聞き出す。
「最近、調子はどう?」
「波はありますけど、なんとか……」
その言葉はどこか薄らいだ。精神疾患は彼女の体だけでなく、心の奥底に暗い影を落としていた。
病院を出ると、港区の煌びやかな街並みが目に飛び込む。光と闇のコントラストが鮮明で、アヤカは毎回そのギャップに息を呑んだ。
「あの光の中に、本当の幸せはあるのかな」
独りごちて、彼女は足早に地下鉄の駅へと向かった。
午後は風俗店での過酷な労働が待っている。
「今日も客つかないと、生活できない」
彼女は自分に言い聞かせながら、薄化粧のまま店のドアをくぐった。
客は時に優しく、時に冷酷だった。アヤカは数え切れないほどの暴言や理不尽な要求に耐えてきた。
「お金のためなんだ」と何度も自分に言い聞かせるが、心は少しずつ擦り減っていく。
だが、そんな日々の中で、彼女はほんの小さな希望を見つけた。
「いつかここから抜け出す」
その思いは決して消えなかった。
ある日、アヤカは同じ店に勤める年上の女性・ミカと話す機会を得た。ミカは過去に大きな挫折を経験しながらも、現在は副業で小さな成功を掴んでいた。
「港区の風俗は地獄だけど、ここでしかできないこともある。上手く立ち回れば、道は開けるよ」
その言葉にアヤカは心が揺れた。
しかし、帰宅途中に見知らぬ男に絡まれ、思わぬトラブルに巻き込まれる。
「お前みたいな女、港区にいらねぇんだよ!」
暴言と共に突き飛ばされた彼女は、その夜、傷心と共に涙を流した。
港区の闇は深く、彼女を容赦なく飲み込もうとしていた。
だが、アヤカの中にある反骨心は消えなかった。
「絶対に負けない」
底辺からの下剋上は、まだ始まったばかりだった。