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俺の後輩が婚約破棄され続けて結婚できない

作者: にふゆ

「僕と婚約破棄してください。実は幼なじみに告白されたんです」

「まあ……」

「僕の方から結婚の申し込みをしておきながら、最低のことを言ってるのはわかっています!でも、でも……僕は結婚したいんだあ!!」


季節は春。冬が終わり、芽吹きを感じるこの季節。抜けるような青空の下で青年の悲鳴じみた懇願が響き渡っていた。



「お前、また振られたって本当か?」

「本当ですよ。トール先輩ったら耳が早いですね」

「俺の耳は関係なくて、噂になってんだよ。いったい何回目だ?」

「何回目でしたっけ。もう数えてないんでわからないです。あーあ、ジョンくんいい線いってたんだけどなあ」


騎士団の鍛錬場に木刀を打ち合う音が響いている。

俺と手合わせをしているのは後輩のローラ。

栗色の髪をした美人で気立てが良く、それでもって伯爵家の一人娘という容姿、性格、家柄とどれをとっても非の打ち所がない女性だ。同じ騎士団に所属していなかったら、俺みたいな見てくれもぱっとしない男爵家の三男坊ごときが口を交わすこともなかっただろう。

しかし、そんなローラは立て続けに婚約破棄されている。実際すごくモテるし、婚約するところまでは上手くいくのだが、そこからの道のりが酷く険しい。

……そう、男側にとって。


「もうアレ、やめたらどうだ?」

「アレとは」

「自分に剣で勝ったら結婚するってやつ。そんなんじゃいつまでたっても結婚できねえぞ。将来お前が婿養子を取って伯爵家を継ぐんだろ?そろそろ親御さんを安心させてやれよ」


先ほど話に出ていたジョンは平民だ。

階級の溝というのは中々に深いもので、貴族と平民の結婚なんてものは滅多に聞かない。家に認めてもらえなくて駆け落ちした、という話の方がよっぽど聞くくらいだ。

それなのにジョンとの婚約を認めたとは、よっぽど切羽詰まっていたに違いない。婚約する度に期待して、そしてそれも直ぐに破棄されて、家の将来を背負わされている彼女が可哀想だと思う気もするが、さすがに少しむごい気もする。負け続け心が折れてしまったジョンも含めて。

そして、この件に関しては俺も少々責任を感じていた。


ローラの一度目の婚約破棄の原因は彼女にはない。

相手の男が他の女に浮気して一方的に婚約破棄を迫ったのだ。

彼女はそれを了承したし、了承してよかったと思うが、ローラに元婚約者が言い放ったという『男勝りの乱暴者。女とは思えない』言葉が俺は許せなくて、王族の護衛騎士だったそいつを御前試合で泣くまでボコボコにしてやった。

やり過ぎて俺もちょっと叱られたけど、そいつをこっ酷く負かしたことはまったく反省も後悔もしていない。むしろ、もっとやってやればよかったとさえ思う。だって、それからローラが『剣で私に勝てた相手と結婚する』と言い出したのだ。あの男がローラの結婚観に影響を与えてしまったのは確実だろう。

一度目の婚約破棄はたまたまハズレくじを引いてしまっただけで、彼女なら普通に幸せになれただろうに、今はわざわざ茨の道を歩いているようしか見えない。自分が宣言したことのせいとはいえ、婚約破棄される彼女は辛くないのだろうかと心配になってしまう。


「……お前、また強くなってないか?」

「恐縮です」


今は少し危なかった。とっさにローラの攻撃を弾いてなんとか先輩の矜持は守ったが、こいつは日々強くなっているから本気で気も手も抜けない。

剣で勝てたら、なんて自信満々なことを宣言する通り、ローラはかなり腕が立つ。鍛錬も真面目すぎるほどに励むものだから、なおのこと腕を上げていた。


「お前、手を抜いたりとかできんのか」

「先輩は手を抜いてほしいんですか?」

「そうじゃねえよ。ただ、お前だって結婚したくないわけじゃないないんだろ?」

「結婚はしたいですよ。私より強い人と」

「そんなこと言ったら独身でお前より強いのなんてもう俺くらいしかいないだろ」


騎士団の中で俺より強い人は何人かいるけれど、それらは既に家庭を持つものばかりだ。もちろん俺なんかじゃローラに釣り合うわけがないのはわかっている。しかし、冗談のつもりで言った言葉に対して彼女は無言で。……まさか、まさかだとは思うけど。


「……俺?」

「バカ!鈍感野郎!」

「お、おい!伯爵令嬢がそんな汚い言葉を使うな!」

「うるさい!」


顔を真っ赤にして大振りで斬りかかるローラの木刀を弾く。その拍子に木刀は彼女の手を離れ、地面に乾いた音を立てて転がった。手を空にしたローラは俺をキッと睨みつけ、そして。


「勝ったんだから、私と結婚しなさいよ!」


おおよそ告白とはほど遠いシチュエーションでそれを叫ぶのだった。


それから、開き直ったローラからの猛アタックを受けて婚約、そこからローラの両親の逃がすまいという気迫を感じる囲い込みを受けながら、ものすごいスピードで結婚までに至った。

なんでも自分のために元婚約者をボコボコにした俺に惚れ、俺と結婚したくて『自分より強い人じゃないと結婚しない』って言ってたんだとか。

素直なのか素直じゃないのかわかんないよなあ。まあ、可愛いとは思うけどさ。

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