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第八話

翼のない飛行機が2機,要塞線の上を飛んでいる.それらのうち,僚機の斜め後ろを飛ぶ機体のコックピットには輝くような銀髪をもつ美しい少女が座っている.彼女は少しの緊張と好奇に満ちた緑色の目を輝かせて眼下に広がる光景を見下ろしている.

「もうすぐ未開拓地域上空に進入します.操縦に集中してくださいね,カエデ.」

少女の隣に座る,少女と似た容姿の妙齢の女性が注意を促す.

「わかった,アリサ.」

そういって少女,もといカエデは視線を前に向けた.その時僚機から通信が入った.

『これから未開拓地域に入ってくぞ.準備はいいな!カエデ!』

「も,もちろんです!」

『まあ何もなければ昼過ぎには帰れるだろう.のんびり遊覧飛行を楽しもうか.』

「はい!」

オリガとの通信が終了し,戦術マップに目を移すと自機がちょうど未開拓地域に進入したところだった.

地上を見下ろすと堂々と大地にそびえたつ要塞線を飛び越えその先の荒地が境界線のように左右に広がっていた.荒地は対戦車用の障害物やクレーターで埋め尽くされていて生き物の気配が感じられない死の大地であった.大地の先はなだらかな地形になっていて,そこには森が遠くの山々まで広がっており,海のようであった.カエデたち二機の飛行機はその大海原の奥を目指し進んでいった.


◇◇◇


樹海上空に入って数分たったころ,カエデの目に森が切り取られていくつかの建物が並んでいるのがうつる.森の木々よりも高いそれらは遠くからでも目視することができた.

「アリサ,あそこに建物あるじゃん.何あれ? というか未開拓地域って無人じゃないの?」

「…カエデ,座学の時間に習いませんでしたか?あれは魔道具生産に使われる鉱石,マナイトの採掘施設です.建物は大きいですが高度に自動化がすすめられているので十数人程度しか常駐していませんね.」

「未開拓地域に住んでるんだ….魔物に襲われたりしないの?」

「防衛用の設備がいくつかあるので大丈夫です.この辺りによくいる小型の魔物程度なら十分防衛できます.」

「そうなんだ.じゃあ安心だね.」

採掘施設上空を通過しつつアリサの解説を聞いている内に,採掘施設は遠く離れていき,やがて稜線に隠れて見えなくなった.


◇◇◇


採掘施設上空を離れてからはや数十分,カエデたちは哨戒を続けていた.

「なんか平和だねー.未開拓地域って魔物がいるところじゃないの?」

「そうですね.もうそろそろ魔物を見つけてもいいころなのですが….」

「小型の魔物ぐらいは見られると思ったんだけどなー.私たちに怖気ついちゃったのかな?」

「それはないでしょう.小型の魔物恐れるのはより上位の魔物ぐらいなものです.」

「そうなんだ.でもそんなのこの辺にはいないでしょ?」

「たしかに通常はこの辺り,表層にはほとんど出没しませんが….」


そのとき戦術マップに白い光点が現れた.

「なにこれ?」


『カエデ,広域レーダーが何かを探知した.確認しに行くぞ.』

オリガは通信が終了すると自機の進路を光点の方へ向けた.カエデも追いかけるように機体をロール軸方向に傾け,続いてピッチ軸方向に傾けて進路を変更した.

マップ上で光点と自機が徐々に近づいてゆく.数分間近づいた後,アリサが端末を操作する.

「本機のカメラで目標を確認しました.中型の魔物,ワイバーンです.」

戦術マップの光点が赤い()色に変わる.

『奴の進路上にはさっきの採掘施設がある.アタシらで撃墜するぞ,カエデ!』

そう言うとオリガ機はワイバーンの後方に回り込んだ.カエデ機も同様に回り込む.速度を調節してワイバーンの後方にピッタリつける.その間にアリサが自機のレーザー砲を展開しワイバーンに照準を合わせた.照準器にはその見た目がはっきりと映っていた.それは肉食恐竜のような見た目で前足は爬虫類らしい皮膜を持った翼になっていた.

「目標が射程に入りました.攻撃を開始します.」

アリサがそう言ってレーザー砲を照射する.ワイバーンは身をよじり不可視の熱線から逃れようとするも正確無比なアリサの照準から逃れるすべはなく体表に黒く焼けた痕が増えてゆく.小手先の回避では避けられないと判断したのかワイバーンは突如として体を下に向け急降下を始める.レーザー砲は目標を捕捉し続けようと下を向くがやがて俯角が足りなくなった.急激な相対速度の変化に追いつけず二機のコンテナはワイバーンを追い越してしまう.

『散開しろ!死角をカバーするんだ!』

そう言ってオリガ機は左に,カエデ機は右に進路を変える.それに呼応するようにワイバーンも進路を変え,カエデ機の方に進路を向ける.今度はあちらに追いかけられる構図となってしまった.

その時ワイバーンが大口を開けカエデ機の方を向いた.

『回避しろ!ブレスが来るぞ!』

カエデがとっさに操縦桿を引くと本来自機がいたであろう場所を大きな火の玉が通り過ぎる.カエデはスロットルを全開にしつつ操縦桿を不規則に操作して軌道を読まれにくくしながら叫んだ.

「なにあれ!あいつもなんか撃てるの!?」

「火炎弾です.追尾はしてきませんが直撃すれば致命傷になりかねません.気をつけて下さい.」

「気を付けてってそんな….反撃できないの?!」

「…火炎弾の射程は極めて短いのでもう大丈夫です.」

「了解.じゃあこっちのターンだね!」

カエデ機が右に大きく旋回し,ワイバーンを中心にして周りをまわるような経路で飛行を始める.オリガ機もそれに同調するようにワイバーンの周りをまわりだす.ワイバーンは再びカエデ機を火炎弾の射程に捉えようとはばたくがもはや反撃に移ったカエデたちの敵ではない.2本の熱線がワイバーンの体表に新たな傷痕をつけてゆく.死に物狂いではばたくがやがて翼の根元がその負荷に耐え切れず淡く光る体液が漏れ出してくる.一矢報いようとしたのか,再び大口を開けたところにレーザーが命中,ワイバーンは全身を淡い光にまといながら森に墜ちていった.


◇◇◇


樹海が途絶え,夕日に染められた要塞線が見えてくる.あれから数匹のワイバーンを捜索,撃墜したため当初の予定よりもかなり遅くなってしまった.

「やっと帰ってこれたー.」

「着陸するまで気を抜いてはだめですよ,カエデ.」

「はーい.でもここから基地まで遠くない?」

『カエデ,朗報だ.近くの飛行場に着陸する許可が出た.今日はそこで泊まろう.』

「ほんとに?よかったー.」


数分程度飛行すると簡易的な飛行場が見えてきた.周囲を木々に囲まれたそこには短い滑走路とそれなりの広さの駐機場,最低限の管制施設があった.

滑走路に着陸し,オリガ機の横に駐機する.深呼吸して体を伸ばしているとコンテナのドアがノックされる.ドアを開けるとそこには暗い赤の髪と目をした大柄な美人,オリガが立っていた.コンテナから降りようとすると体を抱き寄せられ,頭を乱暴に撫でられる.安心できる匂いに包まれているとオリガがなでるのをやめ,こちらもオリガの顔を見上げた.

「今日はよく頑張ってくれたな.ゆっくり休んで明日に備えるんだぞ!」

「あ,ありがとうございます…」

顔の熱を感じながらそう答えるとオリガは私の体を抱き上げてコンテナの中に戻した.

「じゃあおやすみ,カエデ.」

「おやすみなさい,オリガ.」


風呂に入り,晩御飯を食べてからベッドに入る.仰向けになると,窓の外では雪がちらつているのが見える.

「おやすみ,アリサ.」

「おやすみなさい,カエデ.」

心なしかいつもより強いアリサの抱擁を感じる.窓に積る雪とともに意識は闇に溶けていった.


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