第七話
まだエタってないです.多分今後も…
コックピットには横並びに二つの座席があり,右側の操縦席にはエメラルドのような美しい緑の瞳をもつ美少女が座っている.その髪は輝くような銀髪で先端の鮮やかな赤髪とうまく調和している.隣には彼女より少し年上に見える女性が座っている.女性は美少女と同じ銀と赤が調和した髪と,深い緑の目をしている.二人とも街を歩けば誰もが振り向くような美貌をもっており,同じ制服に包まれた体はそれ越しにもわかるほど魅力的な体型をしていた.
美少女が慣れた手つきで各種機器を操作すると,コンテナに搭載された魔導飛行機関が力を発生させる.それは機体をふわりと浮き上がらせた.やがて十分に高く浮き上がると推力はその向きを変えて機体を前進させる.
コックピットから遠くを見渡すと,山々は雪を被り,冬が近づいてきたことを知らせている.
「もう操縦には慣れたようですね,カエデ.それでは演習場に向かいましょう.」
「わかった.」
ナビゲーションシステムに従って進路を演習場に向ける.旋回を終えて推力を上昇させるとあっという間に基地は遠ざかっていった.
街に遊びに行ってからはや数週間,私はコンテナの操縦訓練を受けていた.その結果アリサの補助なしで基本的な操縦をすることができるようになった.
「今日は何しに行くの?」
「射撃訓練です.本機の武装の基本的な動作を確認します.」
「へぇー,このコンテナって武器積んでるんだ.どんなの?」
「レーザー砲です.ちょうど私たちの頭上に配置されています. 普段は格納されていて,射撃時に展開されます.威力は目標にもよりますが,最大で重機関銃と同程度あります. 」
アリサから説明を受けていると遠くに演習場が見えてきた.
演習場に到着し,指定された地点に着陸した.周りは開けていて前方には人工的に段が作られた丘がある.アリサがコックピットの端末を操作すると天井から何かが動く音が聞こえてきた.
Fig.1 コンテナ上部のレーザー砲(背景は本文と矛盾していますが気にしないでください)
「レーザー砲を展開しました.今から射撃訓練を開始します.とは言え,私が砲手を担うのでカエデは少し待機していてください.」
「え?私は撃てないの?」
「そうですね.代わりと言っては何ですが,照準器からの映像を見ますか?」
「じゃあそうしようかな.」
アリサが端末を操作すると,私の目の前のモニターが切り替わり,前方の景色が映し出された.中央には照準線がありその下には狙っているところまでの距離が表示されている.
「それでは射撃訓練を開始します.」
アリサがそういって端末を操作すると,段に演習用の四角い標的が出現する.すぐに照準が合わされ,標的の向こう側が見えるまで穴が開いた.
次に無人機らしきものが段の向こうから飛んできた.無人機は先ほどと同じような標的を曳航して複雑な軌道で飛行している.しかし先ほどと同じように照準はピタリと標的に合わされ,その中心に穴が開いた.
「すご!あんな動きしてるやつにも命中させるなんて!」
「それほどではありません.このコンテナに搭載されたFCSを使えばカエデも同じようなことができますよ.」
そういいながらもアリサはまんざらではなさそうだった.
「それでは今から飛行時の射撃訓練を行います.指定された経路に沿って飛行してください.」
画面がレーザー砲のカメラから飛行用の計器とナビゲーションの画面に切り替わった.ナビには演習場を一周する経路が表示されている.
「飛びながら撃つんだ.」
「そうです.実戦ではそうするのが普通ですので慣れておいてください.」
「実戦?」
「未開拓地域での魔物との戦闘です.明日,未開拓地域に出撃します.その際戦闘になる可能性がありますからしっかり慣れておいてください.」
「え?明日!?」
「前に言ったはずですが…」
「そうだっけ?じゃあしっかり訓練しないと…」
「理解してもらえたようでよかったです.基本的に表層で攻撃的な魔物には出会わないので緊張しなくても大丈夫ですよ.」
「そうなんだ.なら大丈夫かな?じゃあ出発するね.」
離陸して高度を上げ,丘の周りをぐるぐると回る.機体をやや右に傾けて時計回りに旋回するとレーザー砲が地上の標的を継続して攻撃する.
「目標を達成しました.次の経路に進んでください.」
何周か飛んだあと,アリサがそう言うとナビ上の経路が変更された.
今度は低空飛行をする.機体の十数メートル下に木々の頂点があるぐらいの高度だ.その高度で少し飛ぶと,ナビ,もとい戦術マップ上に敵を示すアイコンがいくつか表示される.それらはこちらと同じような速さで移動しているようだ.ある程度接近するとレーザー砲が攻撃を始める.すると次々にアイコンの数が減ってゆき,やがて無くなった.
昼食をはさみつつ他にもいくつかの経路を飛行してから基地に戻った.戻るころにはもうすでに日も暮れていた.格納庫にコンテナを入れると暗い赤髪を短く切った女の人がコンテナの前に立って手招きしていた.コンテナから降りて彼女のもとへ向かう.
「オリガ,何ですか?」
「アンタが未開拓地域に行くのは明日が初めてだろう?緊張してないかと思ってな.」
「今日も訓練してきたので大丈夫です!」
「そうかい.明日はアタシも一緒に行くから,ヤバくなったら言う通りにするんだぞ!」
「わかりました!!」
「うん,いい返事だ.」
そういってオリガが両手で私の頭をなでる.筋肉質な腕で激しく撫でまわすせいで頭が揺れる.頭を抱えられているような体勢になっているからか何かのいい匂いがしてきた.もう少しで目の前のクッションに顔をうずめられ…そうになったところで頭をなでるのをやめてられてしまった.
「じゃあまた明日.おやすみ,カエデ.」
「…はっ,はい.おやすみなさい,オリガ.」
オリガは格納庫の反対側の自分のコンテナに戻っていった.
私もコンテナに戻ると,アリサが玄関で出迎えてくれた.
「おかえりなさい.同志オリガはなんと?」
「ただいまー.明日のことで緊張してないか?って」
「そうでしたか.それでは晩御飯にしましょう」
「はーい.」
晩御飯を食べ,風呂に入ってからベッドに入る.いつも通り,アリサに抱きつくと程よい温もりが伝わってくる.さらに顔をうずめるとかぎなれたいい匂いに包まれる.彼女の腕の中で意識は溶けていった.