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第六話

 朝ごはんを食べた後,寝間着のジャージのままベッドの上でゴロゴロしながら携帯を眺める. 今日は休日のようでアリサから貢献活動についての指示が無かったためである.

 この世界にも主に文字で呟くSNSや動画がたくさん見られるサービス,各種ゲームがあるようで時間を溶かす手段には事欠かなそうだ.

 動画をぼんやり眺めながら手持無沙汰な右手で自分の髪の毛をいじる. 顔の横に垂れた銀髪は滑らかで触り心地がよく,指に絡まることもない. 目線を髪に向けると,髪の途中から毛先に行くにつれだんだんと赤くなっていき,毛先の方は鮮やかな赤色をしていることが分かる. 窓際に目を向けるとアリサが制服を着て座っている. 彼女をじっと見つめるとその深い緑の瞳がこちらを見つめ返す. 穏やかな笑みを浮かべながらこちらを見つめる姿は私に似て聖女のようだ. アリサの銀と赤のグラデーションが神々しさに拍車をかけている.


 そのとき,チャットアプリから通知が届く. 昨日交換したカタリナのアカウントからメッセージが届いたようだ. “外を見て!!” とのこと. ベッドから離れて外を見るとこちらを見つけたカタリナがこちらに全力で手を振った. 炎のような赤い目を輝かせながら何かを叫んでいる. カタリナの横にはソフィアが立っていて,微笑みながら上品にこちらに手を振っている. 何の用だろうか. 首をかしげながら手を振り返していると,ソフィアから”街まで遊びに行きましょう. ”とメッセージが届く.

「アリサ,今から遊びに行ってもいい?」

「いいですが,着替えてから行くことをお勧めします. 」

「わかった.」

 アリサが魔導ドライブをスタンドから外すと,それはひとりでに浮き上がった. (図1) アリサが魔導ドライブから制服とベルトのようなものを取り出す. 私が制服に着替えているとアリサはベルトを魔導ドライブに取り付けてポスターケースのようにそれを背負った.


挿絵(By みてみん)

図1 魔導ドライブ


 コンテナの外に出るとカタリナとソフィア,二人のタヴァーリシ(専属アンドロイド)が待っていた. タヴァーリシは二人とも制服だったがカタリナは可愛らしい服を,ソフィアは落ち着いた雰囲気の服を着ていた.

「あ,来た! 今日も制服なんだ?」

「うん. 私服が無いから.」

「そういえばここにきたばかりでしたね.」

「じゃあ街で何か買おー. いいもの見繕ってあげるよ!」

「えっと,よろしく?」

「それじゃあ出発しよ!」

 カタリナがそう言って歩き出した.


 少し歩くと地下鉄の駅に着いた. 自動改札機を通ってホームに向かうとちょうど電車が来たのでそれに乗る. 中はそれなりに混んでいたため手すりに掴まる. 車内を見渡すと,アリサのような制服を着た人と一緒に行動する人が多く乗っていた.

 何駅かに停まった後,電車はやがて地上に出る. そのままセーベル市街へと河を渡る橋にさしかかる. 河にはほかにも何本か橋がかかっていてこの都市の大きさを感じさせる. 市街に目を向けると高層ビルが広い範囲に立ち並んでいる.

 橋を渡りきると電車はすぐに地下にもぐってしまった. 真っ黒な車窓を眺めていると電車が駅に着いた.

「ここで降りるよ,カエデ.」

 そういって歩き出したカタリナに続いて電車から降りる. そのままついていくと商業施設に着いた.

「そうだ,カエデってここに来るのはじめてだよね?まずは展望台にいこ!」

「いいですね. カエデもきっと気に入りますよ.」

「そんなに?じゃあ行ってみようかな.」

 みんなでエレベーターに乗って商業施設の高層階の展望台に行く. 壁はガラス張りになっていてセーベル市全体を一望することができる. ただ…

「飛んでるときより低くない?」

「ああ,ここはそれだけじゃないの. こっちだよ!」

 カタリナについていくとガラス張りの空間に着いた. そこには色とりどりの花やベンチが並んでいてまるで空中の公園のようだ.

「ここならのんびりできるよ.」

「それにこれも楽しめます.」

 ソフィアがいつの間にか買っていた飲み物を差し出す. 彼女の瞳のようにきれいな青の液体の上にクリームがのっていてとても甘そうだ. 三人でベンチに座り飲み物を飲む. とても甘いがなぜかくどくなくおいしい. この街に来て真っ先に来るわけが分かった気がする.

「美味しいね,これ.」

「やはり気に入ってくれましたね,カエデ.」

 隣のソフィアが満面の笑みを浮かべてこちらを見つめる.

「よかったねぇー,ソフィアー.」

 そう言ってカタリナがソフィアにもたれかかる. 彼女の茶髪とソフィアの黒髪が絡み合いながら揺れている.

「わっ!もーやめてよー,カタリナー.」

「ふふっ,二人とも仲いいね.」

「えへへー.」

穏やかな陽光のもと,ゆったりした時間が過ぎていった.


 展望台から戻り,軽めの昼食を食べた. 商業施設にはいろいろな種類のアパレルショップが並んでいる.

「どういう服がいいですか?」

「うーん. 特には…. 」

「じゃあここにいこ!」

 そう言ってカタリナが女性ものの服でいっぱいの店に入っていく. 私が入るのは場違いな気がして立ち止まっているとソフィアが「いきましょう.」と言いながら私の手を引く.

 店内はそれなりの広さで,私たち以外にも何人かお客さんがいる. カタリナに追いつくと彼女は陳列されている服を手にとっていた.

「カエデ,服を持ってないって言ってたよね. こうゆうのはどう?」

「そうだけど…. 私にはそういうかわいいのは似合わないかも….」

「きっと似合うよ!まずは試してみて.」

 そのまま服を渡されて試着室に押し込まれてしまった. 渡されたのはひざ丈ぐらいのスカートとそれに合う長袖のトップスだ. 秋らしい色合いのそれらはいかにもおしゃれな女の子が着ていそうな見た目である. いくら美少女になったとはいえ着るのは少々ためらわれる.

 しかしせっかくカタリナが選んでくれたものであるから全く着ずに返すのも悪い. それに男は度胸,女も度胸だろう. ここは腹をくくるべきだ.

 制服を脱いで渡された服を着る. 鏡を見るとおしゃれな美少女がこちらを見つめ返す. 体を動かすと無地のスカートのプリーツから柄付きの部分がのぞき,思わず目で追ってしまう. トップスも魅力的な体形を程よく強調していて目の保養になる. 誰も中身が男であることなどを気づかないだろう.

「やっぱり似合ってるね,カエデ!」

 試着室の扉を開けるとカタリナが自信満々な様子で待っていた.

「えへへ,ありがとう.」

「じゃあ今度はこれを着てみてください.」

そういって今度はソフィアが別の服を差し出す.

「えっと…. ソフィアさん?」

「私が選んだのはいやですか?」

「そうじゃなくて,もうこれを買おうと思うんだけど?」

「一着しか買わないんですか?私服が無いんですよね?」

「そうだよ. カエデにはまだまだ着てもらうよ!」

 その後,夕方までファッションショーは続いた. 持てないぐらいたくさん買ったが,アリサが全て魔導ドライブに入れてくれた.


 街を後にし,基地まで戻ってきた. 辺りはもう暗く,街灯や建物の明かりしか見えない. 格納庫の中,カタリナとソフィアのコンテナの間で立ち止まる.

「ではまた明日. また一緒に遊びましょう.」

「うん,もちろん.」

「またね!楽しかったよ!」

 二人と分かれてコンテナに戻った.

 風呂に入って晩御飯を食べてからベッドに寝転がる. 今日もアリサと一緒に寝る.

「おやすみ,アリサ.」

「おやすみなさい,カエデ.」

 アリサに抱き着くと洗剤か何かの甘い香りがした.


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