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第四話

 誰かに体が揺すられている.

「起きてください. 朝ですよ.」

 目をあけると黒を基調とした制服に身を包んだ美人なお姉さんがこちらを見下ろしている.

「おはよう,アリサ」

「おはようございます,同志カエデ. 朝食が出来ています. 冷めないうちに食べてください.」


トイレを済まし,顔を洗った後に朝食を食べ始める. トーストや目玉焼きなどの朝食らしいメニューが机に並んでいる.

「本日は,セーベル市第四発電所に魔力供給を行ってもらいます.」

「魔力供給?昨日みたいにアリサに抱き着けばいいの?」

「私に抱き着く必要はありませんが…. 抱き着いた後に私に魔力を流したのを覚えていますか. それと同じことを発電所に対して行います.」

「ふーん. そうなんだ. そこはここから遠いの?」

「そうですね. 距離はそこまで離れていませんが,初めての魔力供給なので大事をとって現地で一泊します. 準備が出来次第出発します.」

 

 朝食を食べ終わった後,食器を洗い終わったアリサが魔導ドライブから服を取り出す.

「あなたの分の制服です. これに着替えてください.」

 寝間着から制服に着替える. 制服はアリサとおそろいで,黒い上下に分かれたウェットスーツのようなインナー,ワイシャツと暗い赤のホットパンツ, 最後に赤いボタンのついた頑丈そうなコートで構成されていた.

 すべて着ると少し暑い. コートを脱ごうとするとアリサに止められる.

「制服はきちんとすべて身に着けてください. 暑いならインナーに魔力を流してみてください.」

 言われた通り,魔力を流すとインナーの温度が下がり,快適な着心地になった. これならばコートを着ていても暑くないだろう.

「おおー!涼しくなった!」

「機能に問題はないようですね. それでは出発しましょう. ついてきてください.」

そう言ってアリサは廊下を進んでいった.


 アリサと共にコンテナ前方のコックピットに移動した.

アリサが先に左側の座席に,私は右側の座席に座った. アリサの座席には画面と,キーボードと机が一体になった端末がある. 私の座席には操縦桿とペダル,画面などがあった. 画面には位置や速度,高度などが表示されていた.(図1)


挿絵(By みてみん)

図1 コックピット(※本文と画像の間に矛盾がありますが,本文の方が正しいです.)


「あなたが今からコンテナを操縦して発電所まで向かいます. 私が操縦を補佐します.」

「操縦?どういうこと?」

「このコンテナは飛行魔法を応用した魔道具が搭載されています. 平たく言えば,ヘリコプターのように飛べます.」

「これ飛べるんだ. どうすればいいの?」

「操縦桿を倒した方向に機体が傾きます. また,足元のラダーペダルを踏めばそれぞれの方向に機体の向きを変えることができます. それではペダルを動かして正面のヘリポートに移動してください. 」

 そう言ってアリサが端末を操作すると,目の前の扉が開き,広い空き地が目の前に現れた. そしてコンテナがゆっくり前に進みだし,機体全体が格納庫から出る. そのままヘリポートの中央まで進んで停まる.

「今から離陸します. 私の指示に従って操縦桿をゆっくり動かしてください. 」

 アリサがそう言うと機体が浮き上がった. 下を見るとだんだんと地面から離れていくのが見える. 周囲の建物よりも高くまで上昇すると,機体が前に進み始めた.

「操縦桿を手前に引き,機首を上げてください.」

 機体はぐんぐん上昇してゆき,やがて都市や周囲の風景を一望できる高度に達した.

 広大な平野に大河が流れていて,海へと注いでいる. 片方の岸には大都市があり平野の端までコンクリートで覆われている. もう片方の岸には多くの基地や,要塞線が川に沿って並んでいる. 要塞線の向こうには森が広がっていてその奥地は濃い霧でおおわれている. 森を眺めているとアリサが解説してくれた.

「あの森は”未開拓地域”です.」

「未開拓地域?」

「未開拓地域とは,魔物が多く生息し,人類の活動が困難な地域のことです. 銃器含め個人用の武器や魔法では討伐することの困難な生物のことを魔物と呼びます. 稀に魔物が未開拓地域外にあふれ出し,多くの被害が出ることがあります.」

「危ないところなんだね. なんでそんなところにこんな大都市が出来てるの?」

「未開拓地域では魔道具の生産に欠かせない資源が産出するからです. 未開拓地域特有の鉱物資源や魔物から得られる各種素材などがそれにあたります. また,魔物があふれ出した際にすぐに対応できるように多数の部隊が配置されています.」

「そうなんだ. 結構有益なところもあるんだね.」

「そうですね.

 そろそろ目的地に近づいてきました. 機首を下に向けて高度を落としてください. 」

 アリサがそう言うと,平野を囲む山の中腹にそれなりに大きい建物とヘリポート,それらに隣接する広場が見えてきた.


 ヘリポートに着陸した後,機体を広場に移動させる. 広場には何台かの車や貨物用のコンテナが置かれていたが,それでもなお広場のどこにでも機体を止められるほど広い広場だった. 広場からはセーベル市の街並みから要塞線や未開拓地域の深い霧までを一望できる.

 機体から降り,大きな建物に向かう. 中に入るとおしゃれなエントランスに出迎えられる. アリサがそこにある端末を操作すると奥からつなぎを着た人物が現れた.

「ようこそ第四発電所へ,同志カエデ. 魔力供給は初めてだと聞きました. 体調に問題はありませんか?」

「ありません.」

「結構. それでは私についてきてください.」

 つなぎの人についていくと大きな機械がある部屋に着いた. 機械の前にはリクライニングチェアが置いてあり,その横の机には腕に巻く血圧計みたいな帯が置いてある.

「あの椅子に座ってください.」

 つなぎの人の指示に従い,椅子に座る. つなぎの人が私の左腕に帯を巻く. 帯は機械と指ほどの太さのケーブルでつながっている.

「今から魔力供給を行ってもらいます,同志カエデ. 準備はいいですか.」

「はい. 大丈夫です.」

 私がそう答えるとつなぎの人が機械を操作する. すると帯とケーブルに幾何学模様の光が現れる. それと同時に全身から力が湧いてきてそれが帯を通じて吸い出されるような感覚が生じた.

「気分が悪くなったらあなたのタヴァーリシ(専属アンドロイド)に伝えてください.」

そう言ってつなぎの人は部屋から出て行き,アリサと二人きりになった.

「これってどのぐらいかかるの?」

「大抵30分ぐらいです. 」

「そうなんだ. じゃあ午後は暇になるね. 何しよう.」

「魔導ドライブの中に携帯端末が入っています. それの使い方に慣れてください.」

「携帯で何ができるの?」

「そうですね,例えば………」

 魔力供給が終わるまで,アリサと他愛もない会話をして過ごした.


 魔力供給が終わった後,コンテナにもどって昼食を食べた. 午後は携帯をいじって過ごした.

「そろそろお風呂に入ってください,カエデ.」

「あとではいるよー」

「…携帯になれるのはいいことですが,もうお風呂が沸きました. 冷めないうちに入ってください.」

「あとでは「カエデ.」

アリサの声が冷たくなってきた.

「入らせていただきます.」


 洗濯機に服をすべて入れ,浴室に入る. 浴室の大きな窓からセーベル市の夜景が広がっているのが見える. 体を洗ってお風呂に浸かる. 少し見上げると夜空に星々がところどころに輝いている. 夜景を見ているとおぼろげな記憶が刺激されて寂しさがこみあげてくる.

「遠いところにきちゃったなぁ」

 目線を体に移すとまだ見慣れない体が目に入る. いつかこの体に見慣れる日も来るのだろうか. そんなことを考えていると外から声が聞こえる.

「晩御飯の準備が出来ました.」

「………わかった. 上がるね.」

「…どうかしましたか?」

「ううん. もう大丈夫.」

「そうですか. …それではリビングで待っています.」

 洗面所の引き戸が動く音がした.


 晩御飯を食べたあとベッドに寝転がる. アリサはもう家事を終えて椅子に座っている.

「アリサに魔力供給してあげる.」

「昨日行ったので必要ありません.」

「いいから,してあげる.」

「…わかりました.」

 私の隣に寝転がったアリサに抱き着く.

「もう寝ますか?」

「うん,電気消して.」

 電気が消えるとアリサも私を抱きしめる. だんだんと意識が溶けてゆく.

 窓の外には満天の星々が輝いていた.


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