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第二話

「同志ナタリア, 管理局には彼女のデータは一切ありませんでした. 」

合成音声を発する男が背の高い金色の目をした女に報告する.

「そうか. ご苦労」

男が部屋から出ていく. ナタリアはベッドに横たわる少女に目線をおろす.

「あれほどの魔力量がありながらデータなしか… いままでどこにいたのか…」

そうつぶやいた直後, 少女のまぶたがあき,エメラルドのような瞳と目が合った.


「…しか… いままでどこにいたのか…」

 誰かの声で目が覚めた. 金色の目がこちらを見下ろしている.

「起きたか. 私はナタリア. そんなにおびえる必要はない. 起き上がれるか?」

私は上半身を起こし,体をナタリアの方に向けた. ナタリアもベッドの横にあるデスクに座り,こちらに体を向けた.

「お前の名前は?どこから来たんだ?」

 どう答えたらよいものか. 正直に別の世界から来ましたなどと言ったらまた気絶させられるかもしれない.

「………何も覚えていません.」

「お前に黙秘権は与えられていない. さっさと答えた方が身のためだぞ.」

「っ!! 本当に覚えていないんです! 信じてください!」

「懲りない奴だ. もう一度だけチャンスをやる. これをもってもう一度答えろ. お前は何者でどこから来た.

そういってナタリアは私にコード付きのマイクのようなものを渡す. コードはデスクの上にあるデスクトップパソコンのようなものにつながっている. マイクには複雑な幾何学模様が刻まれており, ナタリアがパソコンを操作すると幾何学模様がほのかに青白く光った.

「自分の名前も,ここまでどうやって来たかもわかりません!」

ナタリアは私の目とモニターを交互に見て,こういった.

「どうやら本当に覚えていないようだな. 次はこれをつけてくれ.」

そういってナタリアは私からマイクを受け取り,今度はコードがつながった布をこちらに渡す.

「…なんですかこれ?どこに着けるんです?」

「魔力計だ. …腕を貸せ.」

 腕に巻く血圧計のように布を腕に巻いてゆく. 布にもマイクと同じような幾何学模様が描かれている. ナタリアがパソコンを操作すると幾何学模様が光り出した. するとから力が湧きだし,布を通じて全身をめぐるような感覚がした.

「やはりな. おまえは今日から第四位階の魔法士だ. 分かったな.」

「第四位階の魔法士?なんですかそれ?」

「…本当に記憶がないんだな. 説明してやろう.

 魔法士は魔力を操れる者のうち,管理局に登録してある者のことだ. 出生時に登録することがほとんどだ.

 位階は魔法士の種類だ. 魔力量と社会への貢献度で分類される. 第一位階から第八位階まである. 第一位階から第四位階までは魔力量のみで昇格できるが,第五位階以降は相応の貢献度が必要だ. ちなみに私は第六位階だ. 」

 ナタリアは最後だけ得意気に言った.

「じゃあ私は魔力量が多いってことですか?」

「そうだな. 魔力量だけならこの町で両手の指に入るぐらいだろう.

第四位階の魔法士には専用の居住用コンテナと専属のアンドロイド,タヴァーリシが与えられる. あとでタヴァーリシの見た目を決めておいてくれ.」

「なんかいっぱい貰えるんですね!」

「そうだ. ただし安全のために住む場所はそのコンテナに限られるし, タヴァーリシから離れて行動することは許されない. この規則は破らないように.」

「もし破ったらどうなr「許されないといっただろう?第五位階になるまで我慢するんだな.」

「アッハイ」

 ナタリアから強烈なプレッシャーが放たれたのでおとなしく従うことにした.


 その後,遅い朝食を食べ,別の部屋に移動した. 部屋には机といくつかの椅子,壁にはたくさんの本棚が用意されている. ナタリアは慣れた様子で向こう側の椅子に座り,机の上のタブレットを手に取った.

「そこに座れ. これからお前を魔法士として登録する. 文字は読めるか?」

彼女はそう言って,向かいに座った私にタブレットを差し出す. そこには見慣れない文字が並んでいたが不思議なことに意味が分かった. 名前や年齢などの個人情報を書く欄がある. どれも自分の記憶にはない. 何と書けばいいものか.

「読めないのか?」

「いえ,何を書けばいいかはわかりますが何と書けばいいかわかりません.」

「…ああ. 何も覚えていないんだったな. そうだな…カエデはどうだ?初めて出合った時,お前はカエデの木の下にいた.」

「カエデ… いい響きですね. 気に入りました. 私の名前はカエデにします,ナタリアさん.」

「気に入ってくれたようで何よりだ, カエデ. ようこそ管理局へ.

年齢も19にしておくか.第四位階は基本的にそのぐらいの年齢だ. 」

「わかりました. そうします. 住所とかってどうすれば?」

「それはな………」

こうして私はカエデとして,この世界での身分を手に入れた.


「明日になればお前用のコンテナが届く. それまでこの部屋を使っていい.」

 身分証が発行された後,ナタリアは私を管理局に併設された宿舎の一室に連れてきた.

タヴァーリシ(専属のアンドロイド)の見た目はある程度お前の好みに合わせて変えられる. 今日中に決めておけ. 」

 そう言って彼女はデスクの上のパソコンを操作した.

「操作方法はこれに書いてある. よく読んでから操作しろ. わかったな.」

 彼女から冊子を渡される.

「わかりました. いろいろとありがとうございます. 」

「かまわん. これも私の職務の内だ.」

 そう言い残し,彼女は部屋から出て行った.

 

 何時間かパソコンと格闘し,ようやくタヴァーリシの見た目を決めることができた. 私と似た見た目で,身長を少し高めに設定した.

 ちょうど誰かがドアをノックした.

「どちら様ですか?」

「同志カエデ, 同志ナタリアがお呼びです.」

 合成音声の男声が答える. 扉を開けると黒を基調とした制服に身を包んだ男が立っている.

「私についてきて下さい.」

 そう言って男が歩き出す. ついていくと,カエデと名付けてもらった部屋に着いた.

 机の上には二人分の食事が並んでいて,おいしそうなこちらににおいが漂ってくる. 思わずおなかがなってしまう.

「来たか. 夕食がまだだろう. そこに座るといい.」

 すすめられるままナタリアの向かいに座る. ここまで私を連れてきた男はナタリアの斜め後ろに移動した.

「ありがとうございます. いただきます.」

タヴァーリシ(専属のアンドロイド)の見た目は決まったか?」

「はい,完璧です.」

「そうか. それは良かった. それと,今後のことだが,お前は私の管理下に入ることになった. これからは私の下で貢献活動に励んでくれ. 」

「わかりました. これからもよろしくお願いします. ナタリアさん.」

「こちらこそ. これからのお前の貢献に期待する.」

 会話がひと段落したところで二人とも夕食を食べはじめる.

「これって何の肉です?」

「牛だ. この近くの………」

 

 ナタリアの部屋を後にし,私は宿舎の一室に戻って来た. たくさん食べたからか,眠たくなってくる.

「汗もかいてないし,このまま寝るか. おやすみなさい.」

 私の声と一緒に,意識も部屋の空気に溶けていった.


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