第42話 開戦
「急げ!奴らが来るぞ‼」
「矢の装填よし、そっちはどうだ!?」
「バリスタの配置が間に合ってねえ!」
冒険者や藍色を基調とする隊服に身を包んだ騎士の怒鳴り声が響き渡る。それもそのはず、街から南の森の外からゴブリンとオークの混成部隊の姿が確認されたのだ。やがて、豚の顔を持つ大きめの魔物と、その後ろに張り付く小さな魔物が列を作って街に攻めてきた。
「小さい方がゴブリンで、デカいのがオークだよな。こうして見ると、どっちも汚らしい見た目してんな」
近くの騎士から双眼鏡を借りて覗くと、パッと見ただけで200体以上の魔物の群れが見えた。偵察からの報告通り、ただ横に広がっているだけでなく、最前線にオークと普通のゴブリン、その後ろにメイジとアーチャーといった配置となっている。オークとは木の盾と木の帽子を身に着け、身を守りながら進んでいた。
「放て‼」
ギルバートさんの号令で一斉にバリスタから矢が放たれる。その威力は、ゴブリンを容易く吹き飛ばすほど強力だった。だが、身長2メートル以上のオークは木の盾をどっしりと構え、ダメージを抑えた。運悪く頭に命中した個体は即死したが、大半のオークはピンピンしていた。
「怯むな!第二射用意――今だ‼」
矢の雨によって動きを止めた隙を見逃さず、次の矢を放つ。今度は盾を貫通し直接ダメージを与えられたが、分厚い脂肪のせいで深くまで刺さっていない。多少動きは鈍ったが、その数はほんの少ししか減っていなかった。
「総員、撃つのを止めろ!戦士隊と交代だ‼」
第三射以降も数発撃ち続けた後、交代の合図が鳴った。バリスタの射手たちは矢を装填する手を止め、街壁の中に姿を消した。それと同時に閉じていた門が開き、鎧や隊服を纏い武器を背負った戦士が出てくる。
防衛戦の作戦はとてもシンプルで、射撃隊と戦士隊に別れ、最初は射撃で数を減らし、残った敵を戦士隊が倒すというものだ。だがオークのせいで想定より被害が少なくなってしまった。それでも、後続のために矢は残しておかなければならないため、戦士隊には頑張ってもらうしかない。
「……俺はオーガが出るまで待機かー。暇だな」
「そんなこと言わないでよ。ライアンやルーシーちゃんが戦ってるんだから」
ついさっきまでバリスタを撃っていたシエルは、汗を拭い立ち上がる。目の前に危機が迫っているからか少しきつい口調で指摘された。まあ、気の抜けた言葉を発した俺が悪いのだが……
実際、俺はこの事態にあまり危機感を持っていない。街壁には万全な備えがあり、人々の避難の用意もできている。万が一防衛線が崩れ敗走したとしても、冒険者ギルドには独自の情報網があるため、すぐに討伐隊が結成されると思っているからだ。
だが、この街に住む彼らにとって、この地は絶対に守らなければならない聖地であり、逃げるという選択肢は存在しない。俺もその覚悟に応えるつもりだが、その時までは英気を養っておこう。
「はあ……ま、緊張しっぱなしよりかはマシね。アオイ、どうしたらやる気出せる?ほら、自分にご褒美をあげるとか」
彼女は俺にやる気がないと勘違いしたらしい。少し的外れかと思ったが、会話して緊張をほぐすのには良さそうだ。
「そうだな、……だったら、オーガぶっ倒して俺の銅像を建ててもらおう!んで、その周りに公園を作って、冒険者の憩いの場やデートスポットとして使われるんだ」
「そういえばこの街、公園なかったわね。銅像はともかく、いい考えなんじゃない?」
軽口を叩きながら、外での戦闘を眺める。頑丈なオークや数匹まとまって動くゴブリンに翻弄されているものの、一体、また一体と少しづつ数を減らしていった。
その中でも、獅子奮迅の活躍をする者たちがいた。それは、以前俺とパーティを組んだ酒飲み三人衆だった。リーダーのアントンは大盾でオークの拳を受け止め、その間にイーサンが斧を振り下ろす。その周りに集まるゴブリンをフランツが短剣で的確に急所を狙い仕留めていく。
彼らは二度、ゴブリンの拠点で戦った経験があり、それを活かし三位一体となって戦った。その姿は苦戦する冒険者たちや騎士を勇気づけ、希望を灯す光となった。
彼ら以外にも、大剣を豪快に振り回しオークを両断するライアンや、見たことのない魔法で敵を蹴散らすルーシーが活躍していた。一時間ほどで最前線のゴブリンとオークをすべて倒し、門へと帰還した。
「だ、誰か!こいつに回復魔法を!」
第一陣の戦いは勝利したが、圧倒していたわけではない。当然、負傷者が多数出ており、中には致命傷を負った者も存在する。軽傷者は傷口に包帯を巻き、重症者にはポーションが使用された。ポーションは生命力を回復するが、外傷を一気に治すほど強力なものではない。そのため、神官が回復魔法をかけて傷を塞ぐ必要があった。
「思ったよりきちいな。まだジェネラルも出てねえし、あと何回続くんだ?」
腕に包帯を巻いているアントンが呟く。現時点では人間が優勢だが、それでも命掛けなことに変わりはない。なので、俺は彼の手当をした後、手で背中をバシンと叩いた。
「っ、何すんだよ」
「お前たちには俺がついてる。安心して行ってこい」
「――ああ、わーってるよ」
その言葉とともに、無精ひげの面が笑みを浮かべる。どうやら、彼らは俺が思っているよりずっと強いみたいだ。間もなく、第二陣が攻めてきたと報告を受け、騒がしくなった。俺は街壁に戻り、次の戦いを眺めに向かう。最終兵器として戦うために、そろそろウォーミングアップを始めておこう。




