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第39話 騎士と冒険者

 

 《ライアン視点》


 アオイが魔法を覚えた3日後、僕は彼に連れられ冒険者ギルドに向かった。彼は当然のように2階に上がり、ギルドマスターの執務室に入る。

 「君か。よく来てくれた」

 「こんな忙しい時に呼び出すとは、一体何の件で?」

 アオイが要件を急かすと、椅子に座るよう促された。僕も同席してもいいのかと視線をさまよわせていると、了承の意を示した。

 「君と、そこの木偶の坊を呼んだのは他でもない、冒険者ギルドとアミナス騎士団の共同態勢に問題が生じたのだ」

 「あー……仲良く出来てないってことですか。たった今理由がわかりました」

 彼の言葉のとおり、僕たちと冒険者は根本的に反りが合わない。アミナス騎士団は貴族の子女で構成されていて、平民中心の冒険者を下に見る傾向がある。また、冒険者ギルドも貴族に対してあまりいい感情を持っておらず、ギルドマスターが僕に対して蔑称で呼ぶくらい騎士を嫌っているのが伝わった。

 「まあ今更『手を取り合って頑張ろう!』、とはいきませんよね。両者の橋渡し役はいないんですか?」

 「……一人だけ、戦闘経験が豊富で、両者の想いを理解できる奴がいる。だが…」

 ギルドマスターは言いよどんでしまった。なんでも、本人は騎士だったが、今は冒険者ギルド所属しているというのだ。……その人物には、心当たりがあった。

 「――俺がどうにかします。そのために、彼について知ってること全部、話してください」

 「ああ。――」

 


 ◇◇◇


 冒険者ギルドの訓練場に移動すると、そこには冒険者に剣を指導している壮年の男性の姿があった。

 「――お久しぶりです、ギルバート元団長。」

 「貴様、ヴィクトルの弟の」

 「ライアンです」

 元々職場が一緒だったのもあり、スムーズに自己紹介が進む。元団長の下にはかつて兄上が所属していたこともあり、話題が弾んだ。中には、失敗談など僕の知らない兄上の一面を語るものもあった。雑談の後、冒険者ギルドとアミナス騎士団の指揮官を引き受けてほしいと伝えた。

 「確かに吾輩は両方の立場を知っている。現団長のジュードよりかはマシだろう。だが、それはできん」

 「何故ですか、貴方の腕は未だ健在、疑う者はいません。今一度、お力をお貸しください!」

 「あんたの過去はジェイコブから聞いた。7年前、妻が亡くなって”戦士の意思”とやらが潰えたと、な。だったら――」

 アオイはギルドマスターから受け取った白い手袋を地面に落とし、宣言する。

 「冒険者ギルド教官、ギルバート。お前に決闘を宣言する」

 「—!」

 決闘を宣言され、目を見張る元団長を他所にギルドマスターの使いが銀色に輝く鎧を運んでくる。それは、彼が現役時代に使用していた装備だった。鎧のそばには剣と盾が立てられてあり、どれも手入れが行き届いていた。準備が整うのをみた元団長は、迷うような素振りを見せたが、

 「……その決闘、受けよう。しばし待て」

 そう言って、装備を始め全身に鎧を纏い、訓練場に足を踏み入れた。

 ギルバート元団長がミスリルの盾と剣、全身鎧を身にまとっているのに対し、アオイは軽装なうえ、武器すら構えていない。…いや、彼はカタナと呼ばれる細剣が得意武器。それを納める鞘を身につけている。中身が空なのは、生成したカタナを一時的に納めるためだろう。

 「へぇ、随分立派なフル装備じゃねえか。ミスリルっつったっけ?鋼鉄よりも硬いらしいな」

 「当然だ。決闘となれば、全力で迎え撃たねばなるまい。」 

 冒険者ギルドの訓練場で二人は向き合う。決闘のルールは単純だ。どちらかが降参するか、戦闘不能になるまで戦い続けるのだ。場外負けや判定負けもない、純粋なぶつかり合いだ。

 『我が身を創りし血肉よ。内なる獣を解き放ち、スベテを喰らい尽くせ!≪サクリファイス≫‼』

 アオイが詠唱し終えると、彼の瞳は紅く染まる。血属性魔法≪サクリファイス≫。使用者にしか対象に出来ず、その命を代償に身体能力を高め暴走する、という恐ろしい魔法だ。数ある中、これを選んだときは正気を疑った。っといけない。立会人としての役割を果たさなければ。

 「これより、ギルバート・フォン・シルトリッター対アオイの決闘を開始するゴー……ファイッ!!」

 僕の宣言と同時にアオイが駆け出し、団長は盾を構え防御態勢をとった。アオイは無手のまま、拳を振りかぶり――

 ドォォォン!!

 「ぬぅ!?」

 その衝撃により、団長は思わず後退した。視線を向けた先の腕には、ゴリラの如き黒い剛腕が装着されていた。人間の腕よりずっと大きく、赤い血管が浮かび上がる。息をつく間もなく、追撃を叩きこむ。団長は盾で受け流しつつ、剣で斬りかかる。が、腕は鉄塊と見紛うほどに硬く重い。大きく重い上、鞭のようにしなり、柔軟に動くそれをこのまま受け切るのは厳しいと判断したのか、横転で回避した。

 アオイが腕を振り回し、団長が(しの)ぐ。その戦い方は、同じ人間同士の戦いとは思えなかった。やがて、アオイが右の剛腕を液状に展開する。スライムのように拘束し、反対の拳を兜に命中させた。

 「がっ…!」

 「オイ、どうした⁉逃げんじゃねえ!!」

 盾を構える腕を抑えられ、文字通り鉄拳が鎧を打つ。団長は苦し紛れに剣を突き出し、ミスリルの剣はアオイの右肩を貫いた。集中が乱れたことで右腕の武装が消失し、拘束から抜け出した。

 「痛ってエナ…」

 「もう止せ。これ以上は――」

 「ウルセェ!!」

 片腕を負傷しても、攻撃の勢いは衰えるどころか、さらに威力と速さが高まった。その分隙も大きくなり、アオイの体には団長の剣によって時間が経つにつれ傷が増えていく。

 やがて、防ごうとした盾を剛腕が弾き飛ばし、負傷したはずの右腕が正拳を繰り出す。拳には籠手(こて)が装備されていて、初撃と変わらぬ勢いの一撃が団長を襲う。

 バキン!

 銀色に輝いていた鎧の一部がはじけ飛ぶ。アオイは体中から血を流しても尚止まることはなく、剣へと両腕を伸ばす。

 「【鉄鋏(テッキョウ)】!」

 これまで盾と同様にダメージを肩代わりしてきたミスリルの剣は、黒腕からプレスされたことで鎧と同様に物言わぬ破片と化した。

 「次ハソノ盾ダァ!!」

 破壊衝動のまま腕を振り回し、団長を追い詰める。攻撃手段を失なっても、彼は必死に抗う。暴力の化身が自壊するのを期待しているのだろう。

 だが――それは悪手だ。

 「…おっと、時間だな」

 突然、アオイは正気を取り戻し、懐からポーションを取り出し体に振りかける。傷だらけの体はみるみる回復していった。

 「あ…ああ」

 急速に傷が塞がるのを見て、団長は絶望を抱く。さらにマナポーションを併用した彼は、嘘のように冷静になり、カタナを生成した。

 「さあ、第二ラウンドを始めようか」

 

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