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第33話 蛮勇を超えた恐怖の化身

 ルーシーと秘密を共有した次の日、俺は一人でゴブリンの拠点を潰しに森にやって来た。

 今この街は主戦力を失い、低ランクの連中も負傷している。マトモに戦える冒険者は俺とルーシーくらいだ。

 その事実に、街の人々は不安を感じている。だからこそ俺が力を示し、安心させなければならない。

 『…じゃあ二人で行けばよくない?』

 『ちょっと試したいことがあってな。今日は留守番よろしくな。』

 最終的に装備やポーションを全部持っていくことで妥協してもらった。

 森の奥へ進んでいくと、木とツタで作られた拠点を発見した。探知スキルを使うと、前回以上の規模だということが確認できた。

 「…それがどうした。何体いようが蹴散らすだけだ」

 ポーチから火炎瓶を取り出し、投げつける。壁にぶつかった瓶はパリンと音を立てて砕け、中の油を発火させた。

 「「ギギッ!!」」

 燃え盛る炎にゴブリンたちが騒ぎ立てる。その隙に弓を取り出し、棒立ちしているアーチャーに標準を定める。よーく狙って……

 パシュ!

 放たれた矢は、胴体に命中した。一発では倒せなかったので、もう一発撃ち、とどめを刺す。

 まずは一体、この調子で——

 ドスッ!

 近くの木に、矢が刺さる。…チッ、別の奴に見つかったか。

 だが森の中なら遮蔽物が多い。うまく利用して、姿を隠す。そして、俺のことを見失った瞬間、ソイツの頭を射抜いた。

 自然を味方につけ、次々と倒していく。時々ソルジャーが前に出て来るが、ナイフを使って急所を斬りつける。

 「これで、最後…!」

 戦闘開始から一時間、拠点を一周し、目に見える範囲のアーチャーを全て撃破した。だが、慣れない弓を使っているせいか、集中の糸が切れてしまった。

 他のゴブリンは追いかけて来なかったので、後ろに下がって離脱する。

 少し離れた場所の木の上で一休み。携帯食料を貪りながら下の様子を見ると、一体のゴブリンが俺のいる木に近づいてきた。そして、傍にあった俺のハルバードを見つめ、触れようとする――

 「触んじゃねえ!」

 俺は最後の矢を放つ。ゴブリンは背中から倒れ、後頭部を強打した。…勢いでやっちまったぜ。

 これで弓はもう使えない。木を降り、ハルバードに持ち変える。木の下には、待ってましたとばかりに大量のゴブリンが待機していた。

 「流石に多すぎんだろ…」

 手始めに三体のソルジャーが同時に迫る。俺は柄を両手で持ち、左から右に薙ぎ払う。一番左の奴は即死し、真ん中、右のも大ダメージを与えた。

 「「ギャギャギャギャ‼」」

 間髪入れずに次々と襲い掛かってくる。ハルバードを振り回し応戦するが、数が減ってる気がしない。

時間が経つにつれ精度は鈍くなり、何発か攻撃を受けてしまった。…ただ追い詰められているだけじゃない。生命力が減ることで、凶暴化スキルが発動する!

 「うおおおおおおおおぉぉぉぉ!‼」

 攻撃力が倍になったことで、ゴブリンの波を崩し、反撃に移る。湧き上がる破壊衝動を理性で制御しつつ、ハルバードを振り回し一気に葬っていく。以前は苦戦したソルジャーを蹴散らすのは気分爽快だ。やがて、死体となった群れの奥から二体のゴブリンジェネラルが姿を現した。

 「どうりで指揮が執れてるわけだ…」

 相手にとって不足はない。二体は左右に展開し、棍棒を振りかぶる。俺は右の個体の斜め前に移動し、斧部を水平に振り抜く!

 「ギャァァァ!」

 斧部は腹部に食い込み、重症を負わせた。悲鳴をあげて体制を崩した所に追撃をしようとするが、左の奴がそれを阻む。負傷した方をかばうように元気な方が前に出る。

 俺は伸びた先端を引き戻し、突きを放つ。だが、渾身の一撃は棍棒で受けられ、弾き飛ばされてしまった。

 「――っ!」

 俺の体が吹き飛ばされる。倍加した力を持ってしても、ジェネラルには負けてしまうのか…道理で他の冒険者たちが苦戦するわけだ。このままハルバートで戦うのは厳しいか?

 狂暴化スキルは反動で生命力を失い続けるため、戦いが長引けば死んでしまう。……やはり、刀を出すしかない。ハルバートを地面に落とし、両手を重ねる。そして、刀を鞘から抜くイメージで生成する。

 「濃縮生成…!!」

 多量の魔力と殺意を込めて生成したそれは、今まで出したものよりも強い輝きを放っていた。刀から発する黒い光に、ジェネラル達は危機を感じ襲い掛かってきた。

 まずは疾走スキルを発動し、居合斬りを放つ。前の個体が棍棒を盾に受けようとするが、あっさりと切り裂かれた。武器を失い動揺した隙に無数の斬撃を浴びせ、後ろに蹴り飛ばす。このまま続けて――

 「ゴハッ…ウェッ」

 度重なるスキルの発動は着実に俺の体を壊していく。口から血液が溢れ視界が揺らぐ。それでも、目の前の敵を倒すという強い意志で刀を構える。

 俺が後退させたジェネラルと、腹を斬られたジェネラルが再び前後を入れ替える。互いをかばい会う感動的な光景だが、今の俺には都合がいい。薙ぎ払われた棍棒をしゃがんで避け、攻勢に転じる。開いた傷に剣先を突き立てる。

 ゴブリンを率いる将軍は、部下と同じ地で眠りに落ちた。

 「…!アァ…」

 「…そうだ、もう一体いたんだった。一人ぼっちは寂しいよなぁ…おくってあげないと」

 「ギャアアアア!!!」

 生き残った方は後ずさり、泣き崩れる。…そんなに怖がらなくてもいいじゃないか。君も、仲間と同じところに行けるんだから。

 ジェネラルだった者に(ぼひょう)を突き刺す。そこには、数えきれない(むくろ)と、一つの墓が残された。

 「……。」

 戦闘が終わり、静寂が訪れる。ゴブリンの拠点を単身で潰すことに成功したのだ。だというのに、俺の胸には冷えた指先の感触だけが残った。

 (はか)が消えるのを眺め、体に刺さった矢を引き抜く。肉を裂く痛みが、俺は生きているのだと教えてくれた。

 簡易的なテントを用意し、夜を越した。次の日の早朝、何となく探知スキルを使っていると、反応があった。ゴブリンが建てた家の中に入ると、そこには、虚ろな目の女性と、それに群がる小さなゴブリンがいた。 

 「……生きてたのか」

 おそらく、行方不明になったCランクパーティ【風切羽】の一人だろう。正直、生きてるとは思わなかった。周りのゴブリンを握りつぶし、女性を毛布で包む。…む、声をかけても反応がないな。水だけは強引に飲ませ、バックパックに詰め込む。

 その後、死体を片付け街に帰還する。今回は得るものが多かった。凶暴化スキルはある程度制御できることがわかったし、ジェネラルの強さも改めて実感できた。それに、他のメンバーも生きている可能性が出てきた。

 …ま、今はこの情報を持ち帰って休もう。女性の方は、『教会』の連中に押し付ければいい。

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