第25話 身体強化と酒飲みたち
ギルドマスターからゴブリンの巣殲滅を依頼された次の日、俺は朝早くから訓練場に向かった。なんでも教官のおっさん改めギルバートさんが新しいことを教えてくれるらしい。訓練場に入ると、既にギルバートさんが腕を組んで待機していた。
「ようやく来たか。待ちくたびれたぞ。」
「今朝の6時ですよ?...まあ、年寄りは朝が早いって言いますから」
「なんだと!?吾輩はまだ四十路だぞ。ジェイコブと比べればまだまだ若いわ!!」
「俺からしたら十分年寄りですよ。ところで今日は何をするんですか?」
「……少し早いと思うが、『身体強化』のやり方を教える。その前に質問だ。少年、貴様は魔力を感じたことはあるか?」
これはどう答えればいいのだろう。一応『マスターウェポン』で魔力を消費した感覚は知っているが…おそらくそれとは違うと思う。なので、「よくわからない」と回答した。
「ふむ…ならば実際に体験してみよう。手を出してくれ。」
いわれるがままに右手を出すと、その手をがっしりと握られた。何が始まるのかとワクワクした次の瞬間、ギルバートさんの手から温かいものが体に流れ込んできた。恐らく、これが魔力なのだろう。それは心臓を通過し、丹田に収束した。そして、集まった魔力は体内で循環し、手足の先まで染み渡るような感覚を覚えた。
「今の魔力の流れをより強く熾し、肉体強度を高める技法、それこそが『身体強化』なのだ。貴様は妙に魔力の通りが良い。すぐに感覚を掴めるだろう。」
「ありがとうございます。」
最後に、『身体強化』はスキルと違ってステータスカードに表示されないが、鍛えれば【戦技】という強力な技を習得することが可能だと教えてもらった。ギルバートさんが退出した後、俺は魔力の循環を試みる。槍の訓練と同じようにくり返し練習しよう…そう意気込んだものの、なんと一発で成功してしまった。魔力を血液に見立ててやったのが良かったみたいだ。
「よし、で、この流れを加速して全身をブーストすりゃあ…」
練習用の的である鎧の前に立ち、敵の姿をイメージして拳を構える。腹に力を入れ、魔力を右腕に熾し放つ!
ドゴッ!!
金属を殴ったとは思えない音を立て、放った拳は、鎧の中心を凹ませていた。覚えたてでこれなら、鍛えれば風穴を開けることだってできるはずだ。そう考えると、とんでもない力だ。
魔力 22/25
2時間程練習した後にステータスカードを確認してみたが、ほとんど魔力を消費していない。…これ『マスターウェポン』より強くね?
大体のコツをつかんだので、ひとまず切り上げることにした。建物の中に入ると、朝から酒盛りをする冒険者ぼ姿があった。その中に顔見知りの連中がいたので、声をかけに行った。
「よう、兄弟。朝っぱらから元気そうだな。なんかいいことあったのか?」
「へっへっへ。今日から廃坑でガッポリ稼ぎにいくからな。景気づけに一杯やってるのさ。アオイも飲むか?」
「お言葉に甘えさせてもらう。今日はちょっとした儲け話があるんだ。ギルマス直々の依頼だから、手伝ってもらおうと思ったが…ま、今日から廃坑に行く先輩には関係ない話だったな。」
彼らはDランクパーティ【ドライブーザー】の3人組だ。俺の先輩に当たる奴らだが、毎日のように酒に酔っている。それでも実力は確かで、次期Cランク候補とも言われているくらいだ。そんな彼らにギルドマスターから受けた依頼をチラつかせると、一斉に俺に視線を集めた。仕方なくといった感じで詳細を話した。
「…てなわけで、Dランクの先輩の力を貸してほしいんだ。」
「報酬は一人当たり金貨1枚…こりゃデカいな。イーサン、フランツ。予定変更だ。ゴブリン共を血祭りにあげてやるぞ!」
「おいおい、本当にやるのか、アントン。下手すれば死ぬぞ。」
「フランツは心配性だな。お前ら3人はいざとなれば逃げりゃいいだろ。そん時は報酬はゼロになるが」
「…後輩置いて逃げるなんで、カッコワリィことしねえよ。それで、いつにするんだ?」
どうやら依頼に協力してくれるようだ。ま、合計金貨3枚は破格の値段か。俺の準備が整い次第すると伝え、以来の話を終えた。
その後は、彼らの武勇伝や好みの女の話で盛り上がり、気づけば昼になっていた。盛り上がっている時、背後から肩を叩かれた。振り返ると、不満そうなルーシーの姿があった。
「ずいぶん楽しそうね。アオイ。」
「ファッ⁉ってなんだルーシーか。いつからいたんだ?」
「クラスメイトに美少女が3人いるってとこから」
「…そうか。良ければ混ざるか?」
「いや、支給品申請しに行かなきゃいけないんだけど。貴方も今すぐ来て。」
「しょうがねえな。…それじゃ、俺は帰らせてもらうぜ。依頼の件、よろしく頼むぞ。」
「おう!またな!」
こうして俺は酒飲み3人衆を仲間に入れることに成功した。午後はルーシーと一緒にギルドに欲しい道具を申請し、俺は身体強化、ルーシーは風魔法の練習をして一日を終えた。
…にしても、なんでルーシーは不満げだったのだろう。仲間外れにされたと思ったのかな。




