第20話 槍の訓練:基礎
上位種のゴブリンと戦った次の日、俺は早朝から冒険者ギルドを訪れた。今日は依頼を受けるためではなく、槍の使い方をレクチャーしてもらいたいと思う。
早速、受付嬢に相談すると、訓練場を利用するためには職員の同行が必要であり、この時間帯には冒険者研修の監督を務めたギルバートのおっさんしかいないそうだ。なんでも指導に熱が入りすぎて厳しくなり、中にはそれが原因で冒険者を辞めた人もいたという。
……だからといって逃げ出すわけにもいかない。二つ返事で了承し、訓練場に移動した。中に入ってみると、誰にも使われていない弓の的や藁でできたカカシがポツンと立っていた。中央には円が描かれた広場があり、その周りに訓練用の武器が立て掛けられていた。
俺は訓練用の槍を思わしき木の棒を手に取ってみた。どう見てもただの長い棒なんだが…まあ、木の穂先でも当たり所が悪いと大けがしちまうからな。安全を考慮したということなんだろう。
そうこう考えているうちに、おっさんがやってきた。
「む、貴様か。吾輩の指導を望むのは。」
どうやら研修の時に覚えてくれたみたいだ。槍について教えてほしいと伝えると、快く引き受けてくれた。
まずは基本的な使い方について披露した。突く以外にも、斬る、払う、叩く、薙ぐ等、一通り動きを見せたが…動作一つ一つに全く隙が見えなかった。
一つ一つは単純だが、それを連続で繰り返す様は舞踊を連想させる。これが武術か~と感心していると、
「これで一通りの動きは見せたぞ。さあ、貴様もやってみるがいい。」
と声がかかった。
俺は円の中心に立ち、おっさんの動きを思い出しながら突く、斬る、払うなどを実行してみた。自分で動いてみると、どうもイメージ通りに体を動かせない。頭をかしげていると、横から注意された。
「無駄に力が入りすぎている。もっと力を抜け!」
言われた通りに力を抜くと、今度は棒が手元からすっぽ抜けてしまった。その後、何度も修正され、50回を超える頃には何とか型通りに動くことができた。
「はあ…はあ…どうだ!」
「ふむ、今のはなかなかよかったぞ。さあ、もう一度やって見せよ!」
ずっと動きっぱなしでそろそろ倒れそうだが…逆に動きすぎて余計な力が入ることがなく、スムーズに動くことが出来た。格闘ゲームのコマンドのように繰り返していると、急に棒が滑って落としてしまった。視線を向けると、手汗がぐっしょりとこびりついていた。
「もうこんな時間か。よし、昼休憩にするぞ。」
…もうそんな時間がたっていたのか。そう思った瞬間、膝から崩れ落ちてしまった。どうにか息を整え、立ち上がって食堂の椅子に座り込むこんだ。
「今日は吾輩のおごりだ。好きなだけ食うがいい。」
「ありがとうございます…じゃあこのマッドフロッグの姿焼きで」
何も考えず勢いで注文したメニューだが、いざ届いた大皿を見ると、俺の体の半分ほどの大きさだった。こんな量食べきれるのだろうか…と一瞬考えてしまったが、これを食べなければ訓練を受けることが出来なくなってしまう。
覚悟を決めていざ、実食。…と意気込んでみたが、思ったよりも余裕で完食した。動いていた時には気付かなかったが俺、腹減っていたんだな。
一息ついた後に訓練場に戻って型を見直し、夕方になるまで槍を振り続けた。
「今日はここまでにしておこう。今日一日で随分上達したではないか。」
「ぜえ…はあ…あ、ありがとうございました……」
全身が軋む…。人生で一番長く動いたかもしれない。もう今日は体洗って寝よう。夕食もおっさんにおごってもらい、フラフラになりながらも宿に戻ったあとに魔力を消費し深い眠りについた。




