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さよなら、従順な僕たる者どもよ。  作者: 八千夜
始まりに
3/30

彼の愚行と、彼女の善行。

「二人には減点としてPP一万を徴収する。支払えない場合は手形を持って支払ったことにするので事務室で手続きを済ませておくように」

 そこから渡されたのはいろいろな教科書の配布についてのお知らせ、行事予定、そして生徒心得。

 昼を前にして解散となった。

 先生がいなくなった教室は昨日以上のざわめきを見せて、早々に伊予は一夜のもとへと来ていた。

「あれ、どういうこと?」

「僕にもさっぱり。とりあえず生徒心得を見てみたんだけど、伊予のいうのとは少し制度が異なってるみたいなんだ」

 曰く、この制度改革は今年度からで二年次以降の生徒とはそもそも教育方針が異なるため、すでにこの学園には一年生しかいない。前年度よりも重視される項目が増えたゆえの入学早々からのポイントの変動。

 曰く、新制度におけるPPの変動は定期試験の学力に加えて不定期に行われる特科試験の結果によっても変動する。また、特科試験におけるポイントの変動はクラス単位で行われるためPPが低下したクラスから上昇したクラスに譲渡というかたちで移行される。

 曰く、PPの所持が無いまま年度末を迎えた生徒はいかなる理由があろうとも強制退学処分となり、この学園内での情報を口外した場合はさらに厳しい罰則が行われる。

「去年よりも厳しいってこと?」

「というより、ただ単に評価するための試験の頻度が上がったていうことじゃないかな。定期試験だけで生徒の実力を測ってたんじゃ伸びていかないと思ったんだと思う」

 生徒心得にはまだたくさんの規定について書かれていたが、読むのが億劫でそっと閉じる。

「そうなんだ。……勉強だけじゃだめなのか」

 確かに、彼女のように勉強がかなりできる部類であれば以前の制度ではこの学校に入るだけである程度豊かな暮らしが保証されていたはず。それが入学してから変わりましたと言われたらすぐには納得できあないのも無理はない。

「なら私と組みましょう、一夜くん」

「組む?」

「うん。私、勉強はできるけどそれ以外はたぶんからっきし。でも一夜くんは勉強は分からないけど他のことなら得意な気がするの」

「なんでそう思ったか聞いてもいいかな」

「理由は、ないの。ただの直観だから。誤解したなら今の話は聞かなかったことにして?私は一夜くんとの関係を悪くしたいわけじゃないから」

きっと彼女はこころからそう思っているんだ。瞳を見ればわかる。生徒心得を無造作にカバンに入れて立ち上がる。二人しかいなくなった教室で一夜は伊予に言った。

「もちろん組むのは嬉しいよ。だけど一つだけ約束してくれないかな。このことは、誰にも言わないでほしい」

「え?うん、言わないよ」

「ありがとう伊予さん。それじゃあまた明日」

「うん、バイバイ」

 秘密の同盟が吉と出るか凶と出るかは分からない。ただ、前回の他己紹介は彼女が話しかけてこなかったら僕もペナルティを喰らっていた。そういう意味で言えば、彼女は危機感が強いんだと思う。これからも僕は彼女に助けれられるかもしれない。だから、僕も少し恩返しをできるようにしないと。


 結局二日目の他己紹介以降、特筆するべきことは何も起こらずあれだけ静かだったクラスも輪ができ始めていた。かくいう僕も、隣の男子と仲良くさせてもらっている。

「放課後、一夜くんは予定あるの?」

「ちょっと行ってみたいところがあって。そこに寄るつもりかな」

「そう言われると、気になるなあ。今度僕にも連れて行ってね」

「うん、機会があったらね」

 彼とは教室で別れて校舎を出る。そこまでしてしまえば、この人口密度が極端に低い学園の中では特定の人を見つけるのなんてそう簡単なことじゃない。

 待ち合わせをしているのだとしたら話は別だが。

「お待たせ、ごめんねちょっと時間かかったよね」

「別に待ってないよ」

 いわゆる商店街から外れた場所で、学校関連の施設とも離れたところには少し曲がると地味目ではあるが以外といい感じのお店が立ち並んでいる。そこの一角、喫茶店を待ち合わせにして二人は会っていた。学校で慣れ親しんだ感じで話していると、勘違いする人がでてくるかもしれないというのも一つの理由ではあったけれど、一番はこの店の雰囲気が勉強をするには適しているからだ。

幸い、ここに入ってくる可能性のある人は生徒または教師に限る。長居しても多少は許されるのがとてもいい。

「それじゃ、始めよっか」

「よろしくお願いします」

 頼んでいた珈琲がきてそれを一口飲む。頭を悩ませながら左手でペンをクルクルと回すと紙に黙々と書いていく。

「あってるよね?」

「うん、すごいよ一夜くん!勉強得意なんだね」

「苦手ではないからね。でも、伊予さんには及ばないかな。例えばここ、すぐに解いちゃったけど僕は時間いっぱいかけないと解けないと思う」

「大丈夫だよ、来週のテストは筆記試験。進度を考えたらこの問題は出てこないと思うから。それよりも、私はその後の特科試験が心配だな」

 彼女にとって定期試験は問題じゃない。僕もまぁそれなりには取れると思う。だけど特科試験のほうはまるで見当がいまだついていなかった。

「定期試験のほうは範囲が公開されているのに、特科試験のほうはそもそも試験形式すら開示がない。このあいだみたいに抜き打ちで行うのかな」

「それだったら嫌だな。でも、クラス単位で試験をするんだったら方法は限られる気がするけど」

 はたしてそれはどうだろうか。責任が連帯なだけで試験は個人に課せられるものかもしれない。

 考えようと当日になれば分かることだけど、不安がぬぐえない。

「でも、たぶん大丈夫だよね。きっと何とか上手くいくよ」

「そうだね。……まずは目の前の定期試験を越えないとだし」

「そうそう!もう少しだけ頑張ろっか」


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