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「痛いッ、痛い!!」


「死んじゃうッ、千切れちゃう!!」


「おッ、お願い!! もうやめ――ひぎッ」


響く悲鳴は、絶望に満ちている。

夜に落ちた学園。

その中で、ジークは憎悪の赴くままに加虐者たちを虐め弄んでいた。


ある者は片足の骨を砕かれ。

ある者は手足を見えぬ力で拘束され。

ある者はジークの足元で踞り、震えてた。


ジークは教室を周り、そこに残っていた生徒たち。


その中で。

ジークはいじめに荷担していた者たちを選別し、徹底的に痛めつけていた。


“「なんだジークじゃねぇか。なにか用か?」”


“「くっさいって。なに? わたしたちに文句でもあるの?」”


“「文句? はッ、文句があるのはこっちのほうだ!! さっさと俺たちの目の前から消えろ!! 目障りなんだよ!!」”


“「はははッ、ちょっと言い過ぎだって!! まっ、目障りなのは確かだけどさ」”


勇者様の旅立ち送別会。 

その準備をしていた、愚か者共。


焔勇者が死んだ。

そのことも知らず、吠えていた面々。

ジークが魔王になった。

そのことを知らぬ彼等の中でジークは未だ、底辺のゴミクズに代わりはない。


だが、ジークが“虐め”の意思を表明した瞬間。


状況は一変した。


「許してッ、お願い!! もうじませんッ、ジークを馬鹿になんてしない!! だからッ、だから――」


「吠えてろ、雌犬」


足元にすがる女子生徒。

その顔面を蹴りあげ、ジークは手のひらをかざす。


そして表明される意思。


「犬の分際で服なんて着てるんじゃねぇぞ」


「――ッ」


女子生徒のローブ。

それが千切れ消え、女子生徒はその身を外気に晒してしまう。


女子生徒は「……っ」赤面し、ジークを涙目で見上げる。

その姿は、雨の中に捨てられた子犬のように哀れであった。


しかし、ジークの心は揺るがない。


その女子生徒の前に膝をつき、その頭を掴み。


「俺はてめぇらを許さない。たっぷり虐めてやるから覚悟しとけ」


そう声を発し、勢いよく平手打ちを食らわせる。

女子生徒はその場に倒れ込み、嗚咽を漏らし泣きじゃくるのみ。


その泣き声に、他の生徒たちも更なる絶望へと突き落とされてしまう。


もはや、ジークはあのジークではない。

今自分たちの前に居るのは、ゴミクズだと罵っていたジークではない。


「送別会か。お前らの命の送別会になっちまうかもな」


ジークは嗤い。

下らない餓鬼じみた内装に向け、ダークフレアを撃ち放っていく。


そして追い討ちとばかりに――


「送別会の主役の勇者様ならあっちの教室でお陀仏になってるぜ。はははッ、首をこう引きちぎられてな!!」


そう吐き捨て、嘲笑を送る。


生徒たちは血の気を引かせ、ジークから遠ざかろうとした。

だが、ジークの意思がそれを許さない。


「まだ動けるか。なら、もう少し力を込めてやるか」


表明される、意思。


魔王の力。

それは、ジークの意思ひとつでその強弱を調整することが可能だった。


ジークの意思を体現し――


捻り切られるは、加虐者たちの両手。


刹那に広がるは、絶望と苦痛に満ちた加虐者たちの叫び。


そして、その声を聞きジークは更に声を張り上げた。


「助けを呼べよ。なぁッ、おい!! はははッ、勇者様でもいいぜ!! それとも先公か!? 誰でも呼べよッ、この俺がまとめて返り討ちにしてやる!!」


「たッ、助けて!! 誰かたすけて!!」


ジークの言葉。

それを受け、ローブを失った女子生徒は死に物狂いに声を張り上げた。


腫れた頬に涙を伝わせ――


「殺されるッ、わたしたちはジークに殺される!!」


女子は、哀れみを誘うような叫びをあげる。


それに呼応し、他の生徒たちも声をあげた。


「助けてッ、助けて!!」


「殺されるッ、痛い!!」


「死にたくないッ、嫌だ!! 助けて!!」


その助けを求める声。

その声を聞きながら、ジークはいいことを思い付く。


それは――


「後10秒以内に誰かがこなけりゃ、一人殺す」


時間制限による加虐者の弄び。


“「おい、ジーク。後10秒以内にパンを買ってこい。さもねぇと、わかってんな?」”


かつてジークがされた虐め。


与えられた時間制限。

それ以内に言われたことができなければ、容赦なく拳を腹へと叩き込まれた。1秒遅れるごとに一発。ひどい時には、100発以上拳を全身に叩き込まれたこともあった。


「てめぇらが俺によくやってくれたことだよな? ほらッ、さっさと助けを呼べよ!! 後、5秒もねぇぞ?」


ジークは一人の男子へ手のひらをかざし、煽ってやる。


ジークに命を握られた生徒たち。

顔から血の気を失せさせて焦燥し、懸命に声を張り上げ助けを呼ぶ。


3。2。1。


進む、ジークのカウント。


そして「0」とジークがカウントを終えた瞬間――


開かれたのは、扉。


そして、響いたのは。


「なッ、なにをやっている!!」


「声がしたと思えば……なんだ、これは」


「ジークッ、お前がやったのか!? 全くッ、なんてことをしてくれたの!!」


怒りに満ち。

それでいて、あきれるような声だった。


生徒たちは安堵の表情をたたえる。


そして――


「せッ、先生!! じ……ジークが」


「いたい…いたい。いたい」


「助けて、先生」


そんな声をあげ、加虐者たちは勝ちを確信したような表情をたたえた。


現れたのは、三人の先生。


曰く。

この学園の中でも指折りの魔法使いだった。


「ジーク。ちょっとこっちに来い」


「少し、話がある」


「貴方がどんな術を使ったのかは知らない。だけど、先生としてどんなことがあろうと見過ごすわけにはいかない」


互いに頷き合い、三人はジークに向け敵意をあらわにする。


ジークは振り返り。

しかしその顔に溢れるは揺るぎない自信。


迸る漆黒。

瞬く、深紅の眼光。


そして、呟かれる。


「いい余興になりそうだ」


そんなジークの言葉。


同時に、ジークは男子生徒を仰ぎ見る。


そして――


「あぁ、そうだ。カウントが0になっちまったからてめぇは死なねぇとな」


そう吐き捨て、男子生徒の頭を見えぬ力で弾き飛ばした。


途端、ジークめがけて放たれる3つの魔法。 


火の魔法――フレア。

水の魔法――アクア。

雷の魔法――サンダーチェイン。


そのそれぞれが各属性において上級に位置づけられる代物。

そしてその魔法の後に続くのは、魔法使いたちのジークの人格を否定するかのような罵り声。


「命をッ、貴様は命をなんだと思っている!?」


「学園……いえ、これは生命に対する侮辱」


「人として踏み外してならない道。それをお前は今、踏み外した」


声の余韻。

それと共にジークへと殺到する三種の魔法。


“普通”の人間であるなら、防ぎようのない攻撃。


しかし、魔法使いでもあり先生でもある三人はまだ知らない。

いや、知るよしもなかった。


ジークは既に“人”に非ず――


「命に対する侮辱? 人として踏み外してはならない道? んなもん今の俺には響かない。説教する相手を考えろよ、“虐め”を見てみぬフリをし続けた先生の皆さん」


魔王ジーク”だということを、知る術もなかった。


瞬きひとつ。

霧散し、粒子となって消え去る魔法の痕跡。


その後に残るのは、嗤うジークの姿。


「な……ッ」


「……っ」


「き、貴様は――本当にあのジーク、なのか?」


魔法使いたちはたじろぎ。


そして――


気づく。

いや、気づいてしまう。


「じ、ジーク……まさか、貴様」


魔法使いもとい先生たちが言い終える前に、ジークは更に言葉を続けた。


「もう終わりか? なら、次はこっちから行くぞ」


拳を固め、そこに闇を纏わせていくジーク。


「てめぇらも同類だ。俺をいじめてた奴等と同じ側の人間だ。何度も俺と目が合ったよな? いじめられている時に、何度も何度もこの俺と目が合ったよな? はははッ、あの薄ら笑いは胸に突き刺さったぜ!! 先公の分際でよくもまぁあんな面を晒せるもんだよなぁ!!」 


殺意をたぎらせ、ジークは三人へと照準を合わせる。


「……っ」


息を飲む、三人のうちの一人の魔法使い。


「ジークッ、落ち着け!! 決して先生たちはお前のことを見捨てたわけではない!!」


「そッ、そうよ!! わたしたち先生もッ、貴方のことをずっと考えてた!! いじめられている貴方のことをずっと気にかけ――ッ」


遮るは、吹き抜ける風。

否、風と共に三人の目の前へと現れたジーク。


その赤く燃ゆる瞳が、しかと三人を捉えていた。


ジークの口。

そこから紡がれるは、怨嗟。


魔王オレを舐めるなよ、クソ先公共。勇者もろとも……いや、この学園ごとひねり潰すぞ?」


「まッ、待て!! ジークッ、はやま――ッ!!」


「――ッ」


叩き込まれるは、ジークの拳。


瞬間。

あらぬ方向に首がまがり、後ろ向きに倒れ絶命する一人の魔法使い。


「ひッ、ひぃ。お願い命だけは」


「助け――」


「生憎、俺もてめぇらの命乞いを見てみぬフリをすることに決めた。残念だったな」


ジークは薄ら笑いをたたえ。


容赦なく、そして躊躇いもなく。


魔法使いもとい先生たちの顔面へと――


勢いよく拳を叩き込んだ。

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