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復讐魔王~勇者は皆殺し~  作者: ケイ


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***


"「私は世界が平和ならそれでいい」"


それが、拳聖シオンの口癖だった。

いつも飄々とし、空を流れる雲のように何物にも縛られない生き方。悪い奴を倒す。それだけの為に、幼き日から鍛えあげられた体術と拳。それは世界に並ぶ者なき豪傑と称えられ、いつしか人々から神話の世界に語られる"拳聖"という異名で呼ばれるようになっていた。


どの勢力にも属さず、与しない。

国。勇者。聖騎士。魔法協会。大聖堂。

その全ての誘い。或いは敵対行為。

それを、シオンは"屈託のない笑顔"と"信念のこもった拳"で拒否し或いは返り討ちにしてきた。


だから、今回も。


「拳聖。どうしても、こちら側につくつもりはないのか?」


「うん、ない」


吹き抜ける風。

それを頬に受け髪を揺らし、シオンは逡巡することなく頷いた。声の主である男。その姿を見据え、揺らぐことのない信念をその胸に宿しながら。


「私は世界が平和になればそれでいい。勇者とか魔王とか、興味ない。勿論、反勇者あなたにも興味なんてない」


「……」


「そういうことだから。ごめん」


ペコリと頭を下げ。

くるりと、シオンは男に背を向ける。

その背を見据え、男は更に言葉を投げ掛けた。


「剣聖。魔聖。創造を除く勇者。その死が現実となった今でも、己の中立イシを貫くつもりか? 拳聖」


男の声。

そこにこもる、不快の意思。

同時にシオンは感じた。

突き刺さるような、男の殺気を。


反勇者おれたちからしてみれば。あんたの確約が欲しい。勇者に靡かぬという確約がな」


「確約……か」


後ろを仰ぎ見、シオンは屈託のない笑みを浮かべる。

そして、なにかを悟ったように言葉を続けた。


「それって。どっちが勝っても、"反勇者の皮を被った魔物あんたを狩らない確約"の間違いでしょ?」


「その、通り」


己の声の余韻。

それが消えぬ内に、男はシオンへと牙を剥く。


地に片膝をつき、その瞳を赤く瞬かせ――


拳聖シオン。お前が死ねば、我らの確約は果たされる」


はらりと剥がれるフード。

そして露になる、男の容貌。


闇色に穢れた髪の毛。

痩せこけた頬。

そして、どこまでも“人“を感じさせない鋭く尖った犬歯。


「勇者が消えた後の世界。そこで、魔王ジーク様の影。その下で俺は遠慮なく人という名の餌を狩り続ける。もはや、魔王様の勝利は揺るがない。そして、そこに中立などという存分はいらない。万が一にでも、魔王様が中立である貴様を赦してしまえばーーわかるよな?」


殺意という名の本能。

それに彩られた男の声。


その男に呼応し、吠え猛るは周囲の叢から姿を現した闇狼ダークウルフの群れ。


拳聖シオン

その最大の障害を、魔物たちはその視線の先に収める。


そして男は言葉を紡ぐ。


「さぁ、狩りの時間だ」


男の嬉々とした言葉。

それ合図にし、闇狼ダークウルフたちは一斉に駆ける。

後ろ足を蹴り、常人では捕捉不可能な速度をもって。


だが、シオンは微動だにしない。

いや、動く価値すらない。

拳聖シオンにとってみれば、闇狼など光源に集まる羽虫程度の魔物なのだから。


己の捕食範囲。

そこに迫り、シオンに牙を突き立てようと跳躍する一匹の闇狼。

しかしその闇狼の捕食本能は、シオンの瞬きひとつで、被捕食者の忌避本能へと塗り潰されてしまう。


「……ッ」


空中で姿勢を崩し、地に墜落する闇狼ダークウルフ


そして、拳聖シオンの眼光をその身に受け――


天敵を、抗いようのない差を感じる。


それに倣い。

シオンを狩ろうとした闇狼の群れ。

その魔物たちが、次々とシオンの眼前で立ち止まり怯えた鳴き声をあげてしまう。


その光景に、しかし男は嗤う。


立ち上がり、「紛うことなき、障害。はははッ、狩ってやる!! 俺はオマエを狩り尽くしてやる!!」そう叫び、再び姿勢を低くする。


そして――


捕食プレデター


そう呟き、男は全身に漆黒のオーラを纏わせた。


始まるは、一方的な狩り。


反勇者の衣を纏った人間。

その、またの名を、“餓狼イーターウルフ”と呼ぶ。


拳聖シオンは、その男を見つめゆっくりとその足を前に踏み出す。


そして、淡々と声を発する。


餓狼イーターウルフ


シオンの声に反応し、男は漆黒を纏い疾走。

人の身でありながら、闇狼ダークウルフと同等の俊敏さと速度を手に入れた“魔物”の一角。


だが拳聖シオンの前では、餓狼イーターウルフなど相手にもならない。


シオンの眼前。

そこで、ステップを踏み背後に回った男。


そして、シオンの首筋へとその牙をめり込ませようとした。


だが、その刹那。


シオンは、“気配察知”をもって後ろを仰ぎ見。

中立わたしを舐めるな」そう呟き、すっと流れるように身を逸らせる。


そして、眼前で牙が空を切り姿勢を崩した餓狼イーターウルフのこめかみに向け、拳を撃ちつけた。


絶望的な、衝撃。

脳が震盪し、「ぁ……が」と声を漏らし、その場に糸が切れた人形に両膝をつく男。


白目を剥き、その数秒後。

男は前のめりに倒れ伏せ、小刻みに身体を痙攣させ、息絶える。


拳を解き、シオンは男から闇狼ダークウルフたちへと意識の矛先を変えた。


そのシオンの意識。

それに、周囲の闇狼ダークウルフの群れは我先にと拳聖シオンの側から走り去っていく。


“天敵”


という二文字。

それを、自らの本能に植え付けながら。


その闇狼ダークウルフの忌避行動。

それを視認し、シオンは「ふぅ」と息を吐き拳聖の闘志をその身へとおさめた。


そして、何事もなかったかのように身体を反転させるシオン。


学園はじまりの場所にでも行ってみようかな。なんだか勇者とセシルが居そうな予感もするし」


そう内心で呟き。

楽しそうに鼻唄をまじえながら、その足を踏み出した。


***

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